協会長ステートメント

「 向きあう ふれあう 支えあう 損害保険 〜地域と共にチャレンジ〜 」

                         会 長  鈴 木 久 仁
(2011.6.16)

 日本損害保険協会会長としての1年間を振り返り、以下の通り報告と所感を申し上げます。

1.はじめに

 この1年間における最大の出来事と言えば、損害保険業界のみならず、我が国全体に大きな影響を与える事態となった東日本大震災であることは申し上げるまでもないことと思います。

 この大震災は、多くの尊い命を奪い、貴重な財産を喪失させただけでなく、現在もなお、多数の方に避難所での不自由な生活を余儀なくさせております。また、原子力発電所の事故は、被災地だけでなく全国民に不安をもたらし、さらには、深刻な電力不足を招く等、我が国の経済・社会に多大な影響を与えております。発生から3ヶ月を経た今も、我が国は大変な苦難に直面しており、大震災からの復興が最重要課題の一つとなっております。

 今般の大震災は、我々、損害保険業界にも大きな試練をもたらしました。3月11日を以って、損害保険業界は大いに注目され、その「ありよう」が問われ続けたと言うことが出来るのではないでしょうか。


 大震災発生以来、日本損害保険協会および会員各社は総力を結集し、まさに損害保険の存在意義をかけて、過去に例のない取り組みを次々と実現し、迅速かつ確実な保険金のお支払いに努めて参りました。

 その結果、これまでにお支払いいたしました地震保険の保険金は、6月15日時点で53万3千件、9,745億円に上り、お客様からご連絡をいただいた事案の約91.5%につきまして、対応を完了しております。これは、偏に損害保険業に携わる者一人ひとりが、未曽有の大惨事に直面して、損害保険の原点に立ち返り、自らが果たすべき責務について確固たる自覚を持ち、懸命に取り組み続けた結果であるとともに、関係各官庁、地方自治体等、全てのご関係者のご支援の賜物であると考えております。

 また、損害保険業界といたしましては、今般の甚大な被害状況を踏まえ、全ての被災されたお客様から自発的に事故のご連絡をいただくことは困難であると判断しております。現在、このような認識のもと、これまでの対応をさらに一歩進め、保険金をお支払いできる可能性が高いにも拘らず、いまだご連絡をいただいていないお客様に対して、順次、ご請求のご案内を差し上げており、引き続き、取り組んで参る所存であります。

 一方、大震災への対応以外にも、損害保険業界におきましては、重要な課題が山積しております。なかでも、2010年度決算において自動車保険の正味の支払保険金が前年比で約2%増加する等、損害保険事業そのものが極めて厳しい状況に置かれております。このような状況を受け、従来以上に、交通安全・防災・防犯対策等に注力していくことも、重要な課題であると認識しております。

2.協会長年度を通じた課題について

 昨年6月、協会長就任にあたり、我が国の社会、経済の状況にかんがみ、損害保険業界は、「社会の安定と経済の発展を支える」、「国民に安心と安全を提供する」という、本来の使命をより一層果たす必要があるとの認識をお示しし、協会長年度を通じた課題(年度課題)を定めました。

 先に述べました通り、今回の大震災で損害保険業界は、その使命を迅速かつ最大限に果たすことが求められ、業界をあげて大震災に立ち向って参りました。同時に、大震災への対応を通じて、今年度、注力してきた各課題について、改めてその重要性を認識するに至りました。

 今年度掲げました3つの「重点取組課題」を中心に、大震災への対応を通じて新たに認識した事項も踏まえ報告いたします。

(1)消費者向け啓発活動の推進

 今年度は特に「若者や子供向け」の啓発活動を積極的に推進して参りました。

 そのうち、「大学生向けの『実学講座』」につきましては、3月末時点において累計194講座での実施となり、前年度実績である139講座を大幅に上回る結果となりました。

 また、体系的な学習が可能となる「連続講座」につきましては、今年度、新たに13大学で開講の内諾をいただき、日本損害保険協会の11支部全てにおいて実施することとなりました。このうち、大震災以降「連続講座」を開講した複数の大学において、予定していた受講者数を大幅に超える応募がありました。これは、学生達が大震災の恐ろしさを肌身で感じ、損害保険やリスク・マネジメントに対する関心を急激に高めていることの表れであると受け止めております。

 今年度から新たに取り組みに加えた「高校生向けの『損害保険授業実践プログラム』」につきましては、3月末時点において32校での実施となり、初年度目標(20校)を大幅に上回る実績となりました。

 「小学生向けの『ぼうさい探検隊』」につきましても、1,607マップもの応募をいただき、過去最多数かつ全都道府県からの応募という目標を達成いたしました。今回の大震災において、普段の訓練の結果、臨機応変に対応し、津波から逃れ、九死に一生を得た小学生について報道されておりますが、これは、まさしく平素の安全教育の有効性を示す事例であると申し上げられると思います。

 以上の取り組みは、次世代を担う若者や子供たちにとって、自身を取り巻く危険や、これを回避する手段としての損害保険について、正しく認識することが欠かせないとの考えから進めてきたものであります。今回の大震災を契機として、生活していく上での様々なリスクを想定し、それをコントロールする最適な方法を見つけ出す知識を身に付けていただくことの意義や、また、これを出来るだけ若い頃から学んでいただくことの重要性について、再認識いたしました。引き続き、これらの取り組みを推進して参りたいと考えております。

(2)消費者からのご相談・ご意見への対応強化

 昨年10月1日から、保険業法に基づく指定紛争解決機関である「そんぽADRセンター(損害保険紛争解決サポートセンター)」の業務を開始いたしました。業務開始から僅かな期間しか経過しておりませんが、消費者からご依頼いただいた苦情解決件数、また残念ながら解決に至らず紛争解決手続に移行した件数のいずれも、当初の想定を上回る状況となっております。この結果については、消費者からのご期待の表れであるとして真摯に受け止めるとともに、これにお応えすべく業務運営に励んで参る所存であります。

 また、今般の大震災発生後直ちに、全ての会員会社によって「被災者からのご相談に対し、親切かつ丁寧に対応すること」を確認し、「地震保険契約会社照会制度」をはじめとした多くの新たな仕組みを構築いたしました。これらの運営にあたっては、日本損害保険代理業協会とも連携し、より効果的な案内に努めて参りました。お客様にとって、より身近であることを追求した今回の経験は、震災対応だけに留まらず、あらゆるご相談・ご意見への対応強化に活かしていくことが出来るものと考えております。

(3)新たな募集人試験・教育制度の構築

 2011年10月に予定している「損害保険募集人一般試験」の導入に向け、新しいシステムやテキストの作成等の準備を進めて参りました。この試験では、これまで各社によって異なっていた部分も含めて業界共通の教育内容とし、さらにこの試験の合格を保険募集のための条件として、業界教育を一層充実させることとしております。あわせて、この試験の実効性を確保するため、個々の募集人の合格情報を一元的に管理する「募集人・資格情報システム」を、本試験の申込開始にあわせて稼動させることとしました。さらには、日本損害保険代理業協会との合同検討を経て、募集人がさらなるステップ・アップを目指すための認定制度である「損害保険大学課程」の創設を決定いたしました。

 改めて申し上げるまでもなく、募集人はお客様との直接の接点であり、今般の大震災においても、地域に密着した募集人のサポートが、迅速な保険金支払いの大きな原動力となっております。募集人の存在が、お客様に大きな安心感をもたらす上で欠かせないことを再認識した次第であります。

 今後も、募集品質の一層の向上に向け、業界を挙げて取り組んで参ります。

 上記3つの「重点取組課題」に加え、「交通安全・防災・防犯」、「国際化」等をテーマとした取り組みも進めて参りました。

 冒頭申し上げました通り、自動車保険の支払保険金が増加する中で、交通安全・防災・防犯対策は、損害保険業界にとって喫緊の課題となっております。「全国交通事故多発交差点マップ」による情報提供や、自動車盗難防止の呼びかけに加え、各地域の特性に応じた支部独自の取り組みも積極的に推進しております。

 また、5月には新たに、洪水および地震ハザードマップ向けの副読書「ハザードマップと一緒に読む本」を作成いたしました。今後、全国各地域において、消費者啓発の担い手となる代理店向けの説明会を開催し、周知して参ります。

 国際化する損害保険事業への対応としては、IAIS(保険監督者国際機構)における様々なコンサルテーションに対して、日本損害保険協会としての意見表明を行い、国際社会の中での、健全な国際ルール策定のための論議に積極的に参加いたしました。

 今回の大震災にあたって、世界各国・地域の保険関係団体等から多数の励ましのお言葉をいただいております。このような温かいお心遣いに対しまして、心から感謝するとともに、引き続き、積極的に国際交流を行い、相互理解や連携強化を進めていく決意を新たにした次第であります。

 また、6月3日に第19回「消費者の声」諮問会議を開催いたしました。損害保険業界の大震災への対応が議論の大半を占めましたが、委員の方からは、現在の損害保険業界の取組内容に対し、「損害保険本来の機能を有効に果たしている。」等のコメントも頂戴し、高い評価と今後への期待をいただいたものと考えております。

3.おわりに

 今般の大震災では、損害保険業界で働く社員、そして代理店が、保険金のお支払いにあたって、多くのお客様から感謝の言葉を頂戴いたしました。また、被災者の方を支える役割を担う我々が、逆に温かい励ましのお言葉をいただく等、今回の大震災を通じて、損害保険に携わる者一人ひとりが、沢山の貴重な経験をいたしました。

 こうした経験がもたらした「気付き」や「想い」を決して一過性のものに留めることなく、今後、皆様から一段と信頼していただける業界へと発展していくための「行動」に変えていくことが、非常に重要なことであると考えております。例えば、お客様からの感謝の声を思い出し、一人でも多くの方に地震保険をご案内していくことや、将来の大災害時における迅速な情報提供の実現に向けて、平時から地方自治体等とのネットワークを構築しておくこと等、具体的な「行動」、取り組みを強化、加速させていく必要があると考えております。そして、そのことによって、損害保険業界の存在意義がさらに向上していくものと確信しております。

 協会長就任に際して、「向きあう ふれあう 支えあう 損害保険 〜地域と共にチャレンジ〜」というキャッチフレーズを掲げました。これは、全国各地域において、一人ひとりの消費者と真剣に向きあい、双方向のコミュニケーションをより豊かにしていく必要があるという考えに基づき、定めたものであります。今、改めてこのキャッチフレーズを、我が国の復興へ向け、全国民が互いに支えあい、この難局を打開し、新たな日本を創り上げるチャレンジをしようという想いを込めて申し上げたいと思います。

 私ども損害保険業界といたしましても、このチャレンジを真に支える存在となるべく、一層精進して参る所存であります。

 今後とも、皆様方のご支援・ご協力をお願い申し上げます。

以上