協会長就任にあたって
もっと安心で安全な社会へ
〜 日本の笑顔と活気を取り戻すために 私たちができること 〜
    
会 長  隅  修 三
(2011.6.30)

 日本損害保険協会会長就任にあたり、以下のとおり所信を申し上げます。

はじめに

 東日本大震災でお亡くなりになられた方々へ、謹んで哀悼の意を表しますと共に、ご遺族ならびに被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。

 「未曾有の国難」といわれる地震、津波、そして原発事故の発生から既に3ヶ月以上が経過いたしましたが、今なお多くの方々が不自由で不安な生活を続けておられます。

 先月初めに、仮設住宅建設をはじめとする被災者の生活再建支援やがれき処理、そして道路・港湾等の社会インフラ整備等、復旧に向けた政府の第一次補正予算が成立いたしました。この第一次補正予算の早期執行と共に、本格復興のためにさらに必要となる追加補正予算の編成が喫緊の課題であると認識しております。

 損害保険業界といたしましても、これまでの間、保険金のお支払いを最優先課題と位置づけ、全国から社員・関係者を総動員して、約1兆3百億円の地震保険金(6月29日現在。家計地震保険ベース)を迅速に被災地へお届けしてまいりました。
 

 今後も引き続き、被災された方々の生活再建や被災地域の早期復旧・復興に向けてお役に立つべく、業界の総力を結集して震災の対応に取り組んでまいります。

1.環境認識

 日本経済は、世界経済の回復などに伴う輸出や生産等の持ち直しにより、足踏み状態を脱しつつありましたが、東日本大震災の影響による生産活動の低下や個人消費の鈍化といった動きによって、企業収益が下押しされていることなどから、景気回復は力強さを欠いています。

 景気の先行きにつきましては、震災の影響が依然として大きいことから、当面は弱い動きが続くものと見込まれております。その後は、生産活動の回復と共に、各種政策効果などを背景に持ち直していくことが期待されますが、電力供給の制約やサプライチェーン立て直しの遅れ、さらには原子力災害や原油価格の上昇の影響等により、下振れするリスクも存在しております。また、デフレの影響や雇用情勢の悪化懸念が依然として残っている状況にあり、決して楽観することはできないものと考えております。

 こうした経済情勢に加え、少子高齢化に伴う本格的な人口減少社会の到来や市場の成熟化等により、国内損害保険マーケットを取り巻く環境は引き続き厳しい状況にあるものと認識しております。

 また、収益環境につきましても、主力商品である自動車保険において、事故発生頻度の増加や修理費単価(部品代)の上昇等の影響から損害率が高止まりしており、保険本業での引受利益が赤字となるなど、大変厳しい状況が続いております。

2.損害保険協会の役割と取り組み方針

 こうした厳しい環境ではありますが、一方で、今回の大震災を受けて、消費者や企業の「リスク」に対する関心は高まっております。安心・安全を提供する損害保険業界の役割発揮が従来にも増して期待されており、業界の真価が問われていることを強く意識しているところであります。

 当協会といたしましては、まずは保険金のお支払いを中心とした震災対応を引き続き全力で実行していくと共に、震災を通じて得られた教訓と消費者や企業から寄せられた様々な声を踏まえ、家計地震保険を始めとする損害保険の一層の普及に向けた課題への取り組みについても進めてまいります。

 安心・安全な社会づくりに向けて、より良い商品・サービスを提供し続けることは業界に課せられた社会的使命であります。そのためには、業界の品質向上、持続的な発展、そして健全な成長に資する取り組みが重要であり、こうした取り組みを的確に牽引していくことが、協会長としての責務であると考えております。

3.具体的取り組み

 以上の方針に基づき、具体的には以下の取り組みを今年度の重点課題として進めて まいります。

(1)業界一丸となった震災対応

 震災発生から今日まで、当協会では地震保険金の迅速かつ適正なお支払いに向けた各種取り組みを実施してまいりましたが、今後もこれを最優先課題として進めてまいります。

 さらに、家計地震保険を中心に、甚大な被害に遭われながらも未だ事故のご連絡を頂戴していないお客様に対して、順次、会員各社および代理店からご請求をお勧めする取り組みを行っております。

(2)家計地震保険の一層の普及に向けた取り組み

 家計地震保険は、政府と損害保険会社が共同で運営する公共性の高い制度であり、安定した運営のためには、政府再保険によるバックアップが不可欠であります。

 国の防災基本計画におきましても、地震保険の制度を充実し普及率の向上を図ることが定められており、税制面からも、地震保険料控除制度による保険料負担軽減の仕組みを通じた普及を支援しております。

 地震国である我が国におきましては、官民一体となった地震保険制度の下、国民生活の安定と安心のために、一層の加入促進に取り組む必要があるものと認識しております。

(3)地球環境保護の取り組み

 当協会では、環境保全に関する行動計画を定め、リサイクル部品の活用やエコ安全ドライブの推進など、様々な環境改善に向けた啓発活動に取り組んでまいりました。今回の大震災を契機として、限られた資源の有効活用が改めて注目を集めており、そうした観点からも、業界として自動車修理におけるリサイクル部品のさらなる活用に向けた取り組みを進めていくことが重要であるものと認識しております。

 地球環境保護に繋がる循環型社会を目指し、引き続き、「損害保険業界の環境保全に関する行動計画」に沿った様々な活動を推進してまいります。

(4)保険募集の品質向上への取り組み

 本年10月から募集人約200万人を対象とする新たな試験制度をスタートいたします。新制度の円滑な立ち上げと適切な運営、そして震災を踏まえたカリキュラムの拡充などを図り、募集の品質向上をさらに推進してまいります。

 また、損害保険に係る様々なトラブルを簡易に解決する仕組みとして、昨年10月に「そんぽADRセンター」を設立いたしました。苦情や紛争を解決する機能をさらに強化すると共に、寄せられたお客様の声を真摯に受け止めてまいります。

 これらの声に加え、「消費者の声」諮問会議で得られたご意見も踏まえて、業務全般の一層の品質向上に取り組んでまいります。

(5)事故削減・防災・防犯・交通安全に向けた取り組み

 当協会では、従来から様々な媒体を活用した情報発信、防災・防犯のための教育事業の推進、事故削減に向けた提言活動を幅広く実施しております。特に、子どもたちが実体験の中で防災や防犯、交通安全について学ぶ「ぼうさい探検隊」は、災害発生時に主体的な避難行動を促す実践教育プログラムであり、今後も重要な取り組みとして広く推進してまいります。また、高齢者の事故削減や交通安全に繋がる取り組みも強化してまいります。

(6)業界の一層の健全性向上に資する取り組み

 金融機関の財務の健全性や経営の透明性を向上することを目的に、国際監督規制や国際会計基準といった新たな規制の枠組みがグローバルに検討されております。これは、いわば経営の「ものさし」が変わるということであり、我々損害保険業界もこれに基づく適切な対応が求められております。

 当協会では、引き続き保険監督者国際機構(IAIS)等の国際機関への意見発信を積極的に行うと共に、経済価値ベースのソルベンシー基準などの規制導入に関する諸課題に取り組み、会員各社の一層の健全性向上を目指してまいります。

 また、会員会社において統合リスク管理の主体的な取り組みが進んできておりますが、当協会といたしましても、そうした活動をバックアップしてまいります。

 上記以外に、例えば「消費者啓発・学校教育」の推進や、「金融審議会」並びに「税制・規制・法令等改正」への業界としての要望・提言活動につきましても、鋭意取り組んでまいります。

 なお、本年は当協会における第5次中期計画の最終年度にあたります。計画に沿った取り組みの総仕上げに努めると共に、次期第6次中期計画の策定を的確に進めてまいります。加えて、当協会は、新公益法人制度改革を受けて、一般社団法人への移行を組織決定しており、それに向けた対応も行ってまいります。

 

4.おわりに

 損害保険は、広く社会全般に関わるリスクをお引受けし、事故の際には適時適切に保険金をお支払いすることで社会の安定と経済の発展に寄与する役割を担っております。リスクが時代と共に高度化・複雑化する中にあって、今回の震災で人々は日々の暮らしや仕事に関わるリスクをより身近に感じるようになっており、損害保険に対する関心と期待が高まっているものと認識しております。

 明日そして未来に向けてお客様に安心・安全をお届けしていくことは、今この時に携わるものの使命であり、私自身、協会長としてその先頭に立って、この1年間精一杯取り組んでまいります。

 日本の笑顔と活気を取り戻すために業界としてできることを一つ一つ着実に実行してまいりますので、皆様方のご支援・ご協力を何卒宜しくお願い申し上げます。

以上