協会長ステートメント
会長 隅  修 三
(2012.6.21)

日本損害保険協会会長として、この1年間の主な取り組みや出来事について、ご報告と所感を申し上げます。

1.はじめに

 この1年を振り返りますと、協会長就任当時は、東日本大震災の影響による生産活動・個人消費の低下やサプライチェーンの寸断、そして電力供給の制約など、我が国経済全体が深刻な問題に直面しておりましたが、それ以降も、相次ぐ台風災害やタイの大洪水災害、そして低気圧に伴う暴風雨や竜巻・雹災など、国内外で大規模自然災害が多数発生し、会員各社を取り巻く環境は非常に厳しいものでありました。

 また、欧州ソブリン危機に端を発する世界的な経済の減速、円高と株価の下落、そして本格的な復興需要の立ち遅れなどの影響により、我が国経済の回復の足取りは重く、景気も足踏み状態が続きました。年度末に向けては、株価の上昇など、一時的に回復の兆しが見られたものの、ギリシャ問題の再燃や円高の影響などに伴い、景気は再び減速基調となっており、依然として楽観できない状況が続いております。


 こうした経済情勢に加え、本格的な少子高齢社会の到来に備えて、社会保障と税の一体改革や成長戦略など重要課題が山積しており、将来に対する不安感や不透明感が増した1年となりました。

 なお、協会加盟会社26社の2011年度決算概況は、国内外で発生した大規模自然災害による支払保険金の大幅な増加や、自動車保険の損害率の高止まり、そして資産運用環境の悪化などの影響を受けて、従来にも増して厳しいものとなりました。

2.業界一丸となった震災対応

 昨年6月に協会長に就任して以降、東日本大震災で被災された方々の生活再建や被災地域の早期復旧・復興のお役に立つべく、「的確・迅速な地震保険金のお支払い」を最優先課題に掲げ、事故のご連絡を頂戴したお客様への対応と共に、「請求勧奨」の取り組みを通じて、お客様に対して損害発生の有無を徹底して確認してまいりました。

 また、地震保険をはじめとする損害保険の一層の普及に向けた課題についても、業界一丸となった取り組みを進めてまいりました。

 具体的な取り組みにつきまして、以下ご報告いたします。

(1)「的確・迅速な地震保険金のお支払い」に向けた取り組み

 当協会では、震災直後の理事会で定めた「地震保険中央対策本部基本方針」に従い、お客様からの相談対応、損害調査対応、契約手続に関する簡素化や期日猶予などの特別措置、そして各種情報の発信など、的確・迅速な地震保険金のお支払いに向けて、業界全体としての損害対応を牽引すると共に、会員各社の業務の支援に向けた様々な課題に取り組んでまいりました。

 特に、業界を挙げた「請求勧奨」の取り組みでは、契約更新時や保険料控除証明書交付時、または、代理店による訪問時など、様々な機会を通じてお客様の損害の発生有無を確認いたしました。こうした取り組みにより、総額約1兆2,346億円(78万件)の地震保険金をお支払いすることができました(5月31日現在。家計地震保険ベース)。

(2)「地震保険の一層の普及」に向けた取り組み

 地震保険の制度・仕組みの理解促進に向けて、新聞・テレビ・ラジオなどの様々なマスメディアを用いた「地震保険広報キャンペーン」を展開いたしました。また、防災をテーマとした市民講座を東北全6県で開催するなど、より地域に密着した防災啓発活動にも取り組んでまいりました。

 震災以降、地震保険の保有件数は全ての都道府県で増加し、全国平均10%を超える伸びで推移しておりますが、こうした当協会の取り組みに加え、消費者の皆様の地震リスクに対する意識の高まりも相俟って、地震保険の普及促進に繋がったものと認識しております(3月末前年同月比累計ベース)。

(3)「安定的な地震保険制度」に向けた取り組み

 東日本大震災では、1兆2千億円を超える地震保険金をお支払いし、被災者の生活の安定を目的に導入された地震保険制度が有効に機能したとの評価を多方面からいただきましたが、一方で、震災後の契約件数増加への対応や準備金の減少などの課題も浮き彫りになりました。

 当協会では、こうした課題を踏まえ、持続可能で安定的な制度設計と運営に向けた様々な要望を行ってまいりましたが、この1年間で、地震再保険特別会計の存続や総支払限度額の引き上げ、そして官民負担割合の見直しなどが実現し、より安心して地震保険にご加入いただける制度環境が整いつつあるものと認識しております。

 さらに本年4月には、財務省に「地震保険制度に関するプロジェクトチーム」が新たに設置され、地震保険制度の「強靭性」「商品性」をテーマに論議が行われております。5月25日に開催された第2回会合では、当協会からも、お客様から寄せられた声、給付と負担のバランス、そして制度の持続性・安定性を踏まえて、商品・制度の改善に関する検討の視点などを報告いたしました。

 引き続き、地震保険制度がよりお客様に安心・信頼いただけるよう、損害保険業界の社会的責任を果たしてまいります。

 また、こうした地震保険に関する様々な取り組みに加えて、災害発生時における「契約会社照会制度」の円滑な立ち上げなど、当協会の態勢整備に向けて災害時の行動計画を見直しいたしました。これからも、有事の際に期待される役割を発揮してまいりたいと考えております。

3.その他の課題に関する具体的取り組み

 「業界一丸となった震災対応」と共に、協会長就任時に定めた重点課題を中心に、主に次のような取り組みを実施してまいりました。

(1)地球環境保護の取り組み

 当協会では、昨年8月に「リサイクル部品活用推進プロジェクトチーム」を新たに設置し、関係省庁の後援および自動車関連業界団体の協賛を得て、「リサイクル部品活用推進キャンペーン」を展開いたしました。

 また本年6月、関係省庁・団体が参加し、自動車修理におけるリサイクル部品の活用推進に向けた課題や具体的な取り組みなどを検討する会合が開催され、当協会からも、「リサイクル部品活用宣言」や「利用者アンケート」などの取り組み実績を報告いたしました。

 引き続き、こうした会合などに参画し、自動車ユーザーの皆様の認知度向上に向けた活動などを検討・実施してまいります。

(2)業務品質向上への取り組み

ア.募集人教育
 昨年10月から、業界全体で200万人を超える募集人を対象とする「損害保険募集人一般試験」を導入し、本試験の合格を「保険募集のための要件」とする業界共通ルールの運用をスタートいたしました。あわせて、その円滑な運用に向けて、全募集人の資格取得データを整備した業界共通の「募集人・資格情報システム」もスタートさせました。

 また、新試験制度では、地震保険制度に関する教育カリキュラムを拡充するなど、東日本大震災での対応も踏まえた募集人教育にも取り組んでまいりました。

 さらに、本年7月には、「損害保険募集人一般試験」に合格した募集人が、さらなるステップアップを目指す仕組みとして「損害保険大学課程」をスタートいたします。

イ.「そんぽADRセンター」
 本年4月より、ADR業務の運営を本部1ヵ所(東京)から全国11ヵ所(支部所在地)に拡大し、苦情や紛争を解決する機能を強化いたしました。また、お客様から寄せられた声を起点とした業務改善に向けて、新たなPDCAサイクルを回す施策の取り組みも開始いたしました。

ウ.「『消費者の声』諮問会議」
 本年6月19日に開催した同会議では、当協会の第6次中期基本計画で定めた「共通化・標準化の推進による消費者利便の向上と業務効率化」などの重点課題への取り組みについて、各委員の皆様から、消費者の視点からも積極的に進めていくべきとの貴重なご意見をいただきました。

 引き続き、こうしたお客様利便の向上に資する不断の取り組みを通じて、業務品質の向上に努めてまいります。

(3)事故削減・防災・防犯・交通安全に向けた取り組み

ア.「盗難防止の日」
 昨年10月、自動車盗難・車上ねらい・住宅侵入盗に対する防犯啓発活動を全国47都道府県で実施いたしました。また、「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクト」では、自動車盗難への注意を呼び掛けるキャンペーンを展開いたしました。

 10年以上に亘る取り組みが奏功し、自動車盗難件数はピーク時の半分以下に減少いたしましたが、一方で、近年、盗難多発地域を中心に増加傾向に転じており、引き続き、盗難防止に向けた取り組みを進めてまいります。

イ.「ぼうさい探検隊」
 子どもたちが実体験の中で防犯や防災・交通安全について学ぶ「ぼうさい探検隊」は、東日本大震災を契機とする防災意識の高まりを受け、過去最多となる1,643マップの応募をいただきました。

 その他にも、ハザードマップ向け副読書「ハザードマップと一緒に読む本」の活用に向けた説明会やセミナーの開催、そして、「シニアドライバーのための交通安全のすすめ」を発行するなど、様々な防災・減災に向けた啓発活動を実施いたしました。

(4)業界の一層の健全性向上に資する取り組み

ア.欧州ソルベンシーⅡ(同等性評価)
 昨年10月、欧州保険職域年金監督機構(EIOPA)より、「日本の再保険監督に関する欧州ソルベンシーⅡとの同等性」を大枠で認める見解が公表されました。当協会では今まで、日本の損害保険業界の健全性などについて意見を発信してきており、今後の欧州委員会(EC)の最終判断でも同等性が認められることを期待しております。

イ.ComFrame(コムフレーム)、G-SIIs
 保険監督者国際機構(IAIS)では、「国際的に活動する保険グループ(IAIGs)」の監督・規制のための「共通の評価枠組み(ComFrame)」の策定に向けて、今後、ソルベンシー基準など規制の核心に関わる検討が本格化するものと認識しております。当協会からも、国際的な事業展開を行う保険グループにとって、健全性の強化を促す監督・規制となるよう意見を発信してまいりました。

 また、「グローバルにシステム上重要な保険会社(G-SIIs)」の選定方法および監督・規制のあり方についても、具体的な検討が進んでいくものと認識しております。当協会では、引き続き、今後の動向を注視すると共に、損害保険業の特性を踏まえた合理的な枠組みづくりに向けて、意見を発信してまいります。

 また、昨年9月、保険監督者国際機構(IAIS)の年次会合がソウルで開催され、東日本大震災における業界一丸となった取り組みと共に、政府の再保険に支えられた日本の地震保険制度の仕組みと意義・目的について報告いたしました。こうした取り組みにより、世界各国の保険監督者および業界関係者の皆様に、地震保険制度が有効に機能したこと、そして日本の損害保険業界の財務の健全性について、広く理解いただいたものと認識しております。

 なお、今回のタイの大洪水などの大規模自然災害を踏まえ、会員各社がリスクの複雑化やグローバル化に備えた統合的リスク管理などの取り組みを主体的に実施することが重要であるものと認識いたしました。当協会としても、各会員会社の健全性向上に向けて、引き続き、こうした活動をバックアップしてまいります。

(5)金融審議会

 昨年3月に設置された「保険会社のグループ経営に関する規制の在り方等ワーキング・グループ」では、以下の4つの論点につき、いずれも規制緩和の方向でお取り纏めいただき、本年3月30日に法改正が実現いたしました。

 ア.外国保険会社の買収等に係る子会社の業務範囲規制の見直し
 イ.保険会社の子会社等への与信に係る大口与信規制の見直し
 ウ.同一グループ内の保険会社を再委託者とする保険募集の再委託
 エ.保険契約の移転に係る規制のあり方の見直し、販売停止規定の撤廃

 また、本年6月には、「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」が新たに設置され、現在、活発な論議が行われております。特に、顧客利便性の向上に資する募集文書の簡素化につきましては、当協会の第6次中期基本計画の重要課題と共通するテーマでもあり、当業界からも積極的に意見を発信してまいりたいと考えております。

 引き続き、金融審議会の論議に積極的に参画し、損害保険業界としてお客様利便と企業価値の向上に取り組んでまいります。

(6)税制改正要望

 平成24年度の税制改正要望では、「受取配当等の二重課税の排除」を重点要望項目に掲げて取り組んでまいりましたが、昨年12月に発表された平成24年度政府税制改正大綱では新たな変更点は無く、益金不算入割合の引き上げなどの各要望は引き続き見送りとなりました。

 また、平成25年度は、今年度末に特例措置の期限を迎える「火災保険等に係る異常危険準備金制度」の一層の充実を重点項目として要望してまいります。

 東日本大震災や相次ぐ台風被害などの巨大災害への備えとして、「異常危険準備金の無税繰入れ」をはじめとする税制面の措置は、損害保険業界にとって今まさに必要不可欠なものと認識しております。

 当協会では、これからも、安心で安全な社会の実現に向けた損害保険業界の役割を発揮するために、損害保険事業の健全な発展に資する税制改正要望を行ってまいります。

4.第6次中期基本計画の推進態勢の構築

 当協会では、東日本大震災における対応を通じて認識した課題・役割、そして損害保険業界を巡る今日的な環境変化を十分に踏まえて、第6次中期基本計画(3カ年計画)を策定し、中期的に取り組むべき重点課題を明確にいたしました。

 また、当協会では、新公益法人制度改革に伴い、本年4月1日付けで一般社団法人に移行すると共に、「損害サービス委員会」を新設するなど委員会の再編、そして「共通化・標準化推進PT」など、重点課題の取り組みを具体的に進めていくプロジェクトチームを新たに設置し、第6次中期基本計画を強力かつ着実に推進する態勢を構築いたしました。

 第6次中期基本計画の重点課題(取り組み5本柱)

 ア.事故・災害・犯罪の防止・軽減による社会的損失の低減
 イ.共通化・標準化の推進による消費者利便の向上と業務効率化
 ウ.消費者の声を起点とした業務品質の向上
 エ.要望・提言機能の強化による事業環境の維持・改善
 オ.東日本大震災の経験を活かした地震保険の一層の普及と巨大災害に備えた業界態勢の強化

5.おわりに

 この1年間、協会長業務を遂行するにあたり、皆様方から温かいご支援やご協力をいただき、心より厚くお礼申し上げます。

 相次ぐ自然災害を目の当たりにして、多くの方が損害保険に対する関心や期待を従来以上に高めた1年であったと実感しておりますが、協会長として、「的確・迅速な地震保険金のお支払い」「損害保険の一層の普及」などの取り組みを確実かつ適切に進めていくことで、有事における損害保険業界の使命を一定程度は果たすことができたものと考えております。

 また、消費者や企業の皆様の「リスク」に対する関心の高まりに伴い、損害保険業界の役割発揮が従来にも増して期待されております。引き続き、業界の真価が問われていることを強く意識し、本年度から「第6次中期基本計画」で定めた重点課題に取り組むことで、お客様利便の向上、業務品質の向上、そして損害保険業界の持続的かつ健全な成長に貢献してまいります。

 もっと安心で安全な社会に向けて、より良い商品・サービスを提供するなど、これからも、損害保険業界の社会的責任を果たしてまいりますので、今後とも、損害保険業界ならびに当協会に対するご理解とご協力を何卒宜しくお願い申し上げます。


以上