協会長就任にあたって

会長  櫻田 謙悟

(2014.6.30)

 日本損害保険協会会長就任にあたり、以下のとおり所信を申し上げます。

1.環境認識

 我が国の経済は、政府によるさまざまな経済政策の推進により、持続的な景気拡大の傾向が続いています。本年4月の消費税率引き上げによる景気への影響も個人消費を中心とした民間需要の回復により一時的なものとなり、2014年度下半期に向けて緩やかな経済の成長が続くと見ています。また、今月には「経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)」、および「成長戦略」の改定が発表されるなど、中長期的な経済成長に向けた政策運営の実行が期待されます。さらには、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定し、長期にわたる経済成長への貢献が期待されることから、日本経済の新たな成長に向けた兆しが一層感じられる状況となってきています。
 一方で、中長期的には人口減少による潜在成長率への影響も想定されるなど、経済動向と密接に関係する損害保険事業を取り巻く環境は楽観できない状況と認識しています。

 このような環境のもと、損害保険がより安心かつ安全な社会の形成に資するものとして支持を得ていくためには、損害保険業界として、超高齢社会への本格的な進行、国民のニーズの変化などの環境変化、ICT(情報通信技術)の発展などを見据え、個人や企業を取り巻くリスクに対応するための新たな保険商品やサービスの提供に努めていく必要があると認識しています。

2.取組方針

(1)損害保険業界の社会的役割

 損害保険は、より良い商品やサービスを提供し続けることにより、社会の安定と経済の発展を支え、安心かつ安全な社会の形成に貢献するという社会的役割を担っています。われわれ損害保険業界は、我が国における損害保険業の健全な発展および信頼性の向上を図ることで、この社会的役割を着実に果たしていく所存です。
 東日本大震災では、損害保険業界が一丸となった取組みにより、1兆2千億円を超える地震保険金を迅速にお支払いしました。地震大国であるわが国の地震保険は、被災された方々の生活の安定に寄与することを目的に政府と損害保険会社が共同で運営する公共性の高い保険であり、本年7月からは、保険料の見直しをはじめとした改定が実施されます。引き続き、政府と共同でより強靭でわかりやすい制度および適切な損害査定のあり方に関する検討を進めるとともに、損害保険業界として一層の普及促進に取り組んでまいります。

 近年、世界各地で大規模な自然災害が発生していますが、これらの災害は、いわゆる「ニューノーマル」ではないかと危惧する声も上がっています。損害保険業界としましては、保険商品の普及促進に加え、自然災害発生時の損害の軽減を目的としたさまざまなリスクコンサルティングサービスの提供などを通じ、災害へのレジリエンス(耐力)の強い社会作りに貢献していきたいと考えています。
 2015年3月には第3回国連防災世界会議が仙台市で開催されます。損害保険協会では、東日本大震災で損害保険業界が果たしてきた役割やその経験を踏まえ、2005年の前回会議に引き続き、積極的な参画を行う方向で検討を進めています。

 損害保険協会では本年7月1日に、「自然災害損保契約照会制度」を創設します。災害救助法が適用された地域で、契約先の保険会社がわからない個人のお客さまに対し、全保険種類を対象とした共通の契約照会窓口を常設することで、被災されたお客さまの不安を少しでも和らげ、迅速な保険金のお支払いにつなげるよう、会員各社とともに取り組んでまいります。

(2)第6次中期基本計画の最終年度として

 本年度は「第6次中期基本計画」(2012年度〜2014年度)の最終年度として、重要課題に対する取組みを加速するとともに、これまでの取組みの総仕上げとして、「社会的損失の低減」、「わかりやすさの向上」、「損害保険事業の環境整備」の3つを重点取組課題として推進してまいります。

(3)超高齢社会への対応

 我が国の人口に占める65歳以上の割合が2020年に約30%、2050年には約40%に達するなど超高齢社会への本格的な進行が見込まれる中、我が国の高齢社会への取組みが世界に誇れるモデルとなるよう、損害保険業界としても高齢者の生活の質の向上を後押しする新たな技術革新や新産業の発展に資する保険商品やサービスの提供に取り組んでいく必要があります。
 超高齢社会への対応については、2015年度が初年度となる第7次中期基本計画の策定を見据えながら、損害保険協会として課題の整理を行っていきたいと考えています。

3.具体的な取組み

(1)社会的損失の低減に向けた取組み 〜安全・安心な社会への貢献〜

 事故や災害、犯罪などの社会的損失の低減に向けた取組みは、社会や消費者に対する安全と安心への貢献という観点からも、損害保険業界として重要な使命と認識しています。不正請求防止の取組みや事故削減につながる安全教育など、幅広い活動を行ってまいります。

ア.保険金詐欺、不正請求防止の取組み

 これまで、保険金詐欺や不正請求など、保険制度を悪用した行為を防止するため、専門部署である「保険金不正請求対策室」の設置、通報窓口である「保険金不正請求ホットライン」の開設などの取組みを進めてまいりました。
 業界共通の保険金不正請求データの充実、分析につきましては、不正行為関係者のネットワーク分析システムの運用を開始するとともに、「保険金請求歴表示システム」の開発を決定しています。
 本年度は、保険金詐欺防止啓発ポスターなどによる啓発活動、関係データの充実、諸外国における共同データやシステム活用事例の研究などを継続的に進める一方、消費者意識の追加調査など、より実効性ある不正請求防止へ一層の体制整備を進めてまいります。

イ.安全や防災の啓発活動の取組み 

 これまで蓄積しているノウハウを活かした防災教育を積極的に推進しています。特に、将来を担う子どもたちが自分たちの住む地域を探検しながら防災・防犯・安全について学ぶ実践プログラムである「ぼうさい探検隊」は本年度で11回目を迎えていますが、本年度の表彰式は国連防災世界会議の開催時期にあわせ、2015年3月に仙台市で開催することとしています。
 また、自転車の安全対策やシルバードライバーの事故削減への取組みなど、昨今社会の関心を集めている身近なリスクへの対策に関しても、一層の理解浸透を図ってまいります。

(2)わかりやすさの向上に向けた取組み  〜より深くご理解いただくために〜

 お客さまに損害保険の商品やサービスをより深くご理解いただけるよう、わかりやすさの向上に向けたさまざまな取組みを推進してまいります。

ア.共通化と標準化の取組み

 お客さまの利便性向上に向け、適切な募集態勢や保険金のお支払態勢の構築、業務品質向上に向けた取組みを会員会社とともに推進してまいります。
 これまでも、募集文書や契約募集、保険金支払いに関するガイドラインなどを策定してまいりましたが、本年度も引き続き、共通化・標準化の取組みを進めてまいります。

イ.高齢者に対する適切な取組み

 超高齢社会においては、高齢のお客さまに対するより丁寧な対応が求められています。本年2月にはこの観点から「保険会社向けの総合的な監督指針」が改正され、高齢者に対する適正な保険募集に関する留意点が追加されているところです。
 本年6月には「高齢者に対する保険募集のガイドライン」を策定するなど、引き続き、高齢者に対する適切な取組みの検討を進めてまいります。

ウ.品質向上の取組み

 損害保険募集人が一層のステップアップを目指す仕組みとして、一般社団法人 日本損害保険代理業協会と共同で「損害保険大学課程」の教育制度を運営しています。現在までに約5万人が「損害保険プランナー」に認定されており、本日、最高峰の資格である第1期の「損害保険トータルプランナー」も誕生します。
 また、損害保険業務全般につきましては、損害保険業界に関する課題などを幅広くご議論いただく「お客さまの声・有識者諮問会議」でのご意見や、「そんぽADRセンター(損害保険相談・紛争解決サポートセンター)」を通じて寄せられるお客さまの声を踏まえ、品質向上に継続して取り組んでまいります。

(3)環境整備に向けた取組み 〜より健全で安定的なサービス提供のために〜

 我が国の経済発展や安心かつ安全な社会の形成に貢献できる、より健全で安定的なサービス提供のために、国内外の制度や規制、税制問題などへの積極的な意見表明や要望を行い、損害保険事業の環境整備に資する取組みを推進してまいります。

ア.保険業法改正を受けた実務対応

 先般公布された改正保険業法には、保険販売時にお客さまの意向を把握する義務や情報提供義務、さらには保険募集人に対する体制整備義務の導入など、損害保険の募集実務に大きく影響する改正項目が盛り込まれています。お客さまからの一層の信頼向上のため、会員会社とともに法律施行に向けた準備をしっかりと進めて まいります。
 また、保険募集人などに関して、金融審議会の報告書などを踏まえた行政上の監督対応も実施されており、会員会社や損害保険代理店とともに取り組んでいます。

イ.国際規制などへの対応

 金融・保険のグローバル化の中で、各国の金融・保険規制の国際的な統一、調和の必要性が高まるなど国際的な監督基準策定の動きが進んでいます。損害保険協会では、保険監督者国際機構(IAIS)などの国際機関における検討に際して積極的な意見表明を行ってまいります。

ウ.アジア諸国へのインフラ支援

 損害保険協会では、東アジア諸地域に対する保険技術協力・交流プログラムとして、1972年から毎年、日本国際保険学校(ISJ)を開催しています。また、損害保険料率算出機構や公益財団法人損害保険事業総合研究所と連携して、アジアなどの新興国を中心に、我が国の損害保険業界が培ってきた料率算定制度などのソフトインフラのノウハウ提供にも取り組んでいます。
 本年度は、財務省が金融庁、日本銀行と連携をとって取り組んでいるカンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナムの保険監督官向けの技術支援プログラムへの講師派遣を予定するなど、引き続きアジアの金融インフラ整備支援に資する、保険技術協力を中心とした積極的な取組みを推進してまいります。

エ.税制改正要望

 昨年度の税制改正要望では、損害保険事業に関連する税制上の課題として「受取配当等の二重課税の排除」や「消費税制上の課題解決」などを掲げ、取り組んでまいりました。本年度も、損害保険業界がより安定的に商品やサービスを提供し、安心かつ安全な社会作りに貢献していくため、わかりやすく持続的な税制という観点から、税制改革要望を取りまとめてまいります。

4.おわりに

 損害保険会社は、社会や環境の変化などにより複雑化、高度化するリスクに対し、時代に対応した、利便性の高い商品やサ−ビスを提供していくことが求められています。
 今後はより一層、ICTなどの最新の技術を活用しながら、安心かつ安全な社会の形成に、そして日本経済の持続的な成長に貢献していくことが重要になると考えています。
 これら諸課題にかかる損害保険協会の取組みを着実に前進させるべく、協会長として一年間誠心誠意取り組んでまいります。
 皆さまのご支援、ご協力を何とぞよろしくお願い申し上げます。


以 上

2014年6月 協会長就任ステートメント(PDFファイル)