協会長就任にあたって
~100年の学びを礎に、これからも安心と安全をお届けする~
会長 北沢 利文

日本損害保険協会会長就任にあたり、以下のとおり所信を申し上げます。

1.はじめに

 平成28年(2016年)熊本地震(以下、熊本地震)でお亡くなりになられた方々へ謹んで哀悼の意を表しますとともに、ご遺族ならびに被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。
 地震発生から2か月以上が経過し、生活インフラ、サプライチェーンの復旧も伝えられておりますが、14万棟を超える住宅や観光資源の被害をはじめ、被災地には大きな傷痕が残っております。復旧・復興に特化した補正予算が成立し、これから被災者の皆さまの生活再建と地域経済の回復に向けた動きが加速していくことが期待されます。
 損害保険業界といたしましては、これまで地震保険金のお支払いに業界を挙げて取組み、209,293件、3,285億円の保険金(6月27日現在・家計地震保険)をお届けしてまいりました。既にご請求いただいたお客さまの大半の方に保険金をお支払いしておりますが、未だご請求をいただいていないお客さまを含め、最後の1件まで確実に保険金をお支払いするよう引き続き取り組んでまいります。

2.環境認識

 我が国経済は現在足踏み状態となっておりますが、雇用・所得環境の改善が続いていることから、今後緩やかな回復基調に戻ると見込まれます。
 一方で、先日の英国の国民投票によるEU離脱の決定が金融市場に大きな動揺を与えており、先行きの不透明感が著しく高まっております。今後の実体経済への影響や、円高・株安による我が国経済への波及も懸念されますが、各国の政策対応によっても状況は変わり得るため、注視していきたいと考えております。
 このような不透明感の高い状況であるからこそ、デフレと決別し持続的な経済成長を実現するために、国民の皆さまの将来への不安を取り除いて需要と投資を喚起していくことが最も重要であり、イノベーションによる新たな市場の創出、生産性の向上も求められます。6月2日には「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2016」や「日本再興戦略2016」をはじめとする一連の重要政策が閣議決定されました。こうした我が国の成長に資する様々な政策がスピーディかつ着実に実行され、民間が前向きに活動していくことによって、経済の好循環が確固たるものになることを期待しております。
 損害保険業界といたしましても、自然災害のリスクや、イノベーションとともに生じる新たなリスク等にも積極的に対応し、万が一の際にもお客さまをしっかりとお守りする商品・サービスの提供を通じて、国民経済を下支えしていきたいと考えております。

3.取組み方針

 当協会では、「新たな環境変化への対応」「災害・犯罪の防止または軽減」「消費者の保険利用環境の整備」を柱とする3か年計画「第7次中期基本計画」を定めております。2年目を迎えた本年度は、「リスク等に関する幅広い情報の発信」「損害保険会社の健全性向上と確実な保険金支払いに資する取組み」の2つの観点から関連する施策を重点的に推進することで、「3つの柱」を着実に進めてまいります。

4.具体的な取組み

(1)リスク等に関する幅広い情報の発信

 当協会は、国民の皆さまに社会生活を取り巻く様々なリスクを正しく認識していただき、損害保険の活用を含めた「適切な備え」をサポートすることで、事故や災害の際の社会的損失を低減させていく役割を担っております。本年度は、特に地震をはじめとする自然災害や高齢者交通事故等について積極的に情報を発信し、防災・減災・交通安全に資する取組みを推進してまいります。

ア.地震リスク・家計地震保険(以下、地震保険)への理解促進

 東日本大震災以降、政府では南海トラフ巨大地震や首都直下地震等の被害想定の見直しが進められ、大地震リスクが一層顕在化しています。また、熊本地震の発生により、我が国では「いつでも、どこでも」大規模な地震が発生しうることを改めて認識させられました。そうした状況を踏まえ、我が国の地震リスクと、有効な「自助」の手段である地震保険の必要性について、積極的に情報を発信してまいります。
 地震保険は、政府と損害保険会社が共同で運営する公共性の高い制度であり、本年6月に制度創設50周年を迎えました。創設当時は、建物に地震保険をご契約いただく場合、保険金額の上限は90万円、保険金のお支払いは全損の場合に限られていました。その後、幾度となく改善が加えられ、今日では保険金額の上限は5,000万円、半損や一部損の場合にも保険金をお支払いできる、創設時に比べ充実した内容となっております。
 この間、地震大国日本における「安心の拠り所」として一定の評価をいただいてまいりましたが、一方で現在の世帯加入率は28.8%、地震保険付帯率は59.3%(2015年3月末)にとどまっており、年々上昇しているものの、さらに国民の皆さまに「自らのリスク」として理解を深めていただく必要があると認識しております。
 当協会では、このような課題認識から、9月5日に「地震保険創設50周年記念フォーラム」を開催いたします。地震保険の50年の歩みを振り返りながら、家計における地震リスクのマネジメントについて改めて考え、損害保険各社・代理店が一体となって地震保険の普及を進めていく契機にしたいと考えております。

イ.自然災害等に対する防災・減災に向けた取組み

 我が国は、その自然的条件から様々な自然災害が発生しやすい特性を有しております。昨年は、台風15号や18号等による風災や水災等の自然災害が大きな被害をもたらしました。自然災害リスクは、気候変動の影響で今後さらに大規模・多様化していくと考えられ、社会の各主体がそれぞれ備え、協働して災害に対処していくことがますます重要となっております。
 当協会では、本年度も「重点取組み地域」を定め、各自治体とも連携のうえ、地域ごとのリスクに応じた防災・減災の啓発活動を行ってまいります。
 また、子どもたちが楽しみながら「まち」を探検し、防災、防犯、交通安全の施設・設備を発見しマップにまとめることで、それらの関心・理解を深める実践的安全教育プログラム「ぼうさい探検隊」を推進いたします。
 引き続き、地域における自助・共助の強化をサポートし、防災力向上に貢献していきたいと考えております。

ウ.高齢者交通事故防止に資する取組み

 高齢者が被害者・加害者となる交通事故は年々大きな割合を占めるようになっており、とりわけ、交通事故死者数の過半が65歳以上の高齢者となっています。当協会では、高齢者交通事故の発生実態や事故特性の研究を通じて、より効果的な事故防止策を検討するとともに、警察とも連携した啓発活動を推進し、社会的損失低減のお役に立てるよう努めてまいります。

エ.損害保険の理解促進に向けた取組み

 当協会では、国民の皆さまに損害保険を理解いただくための取組みとして、様々な講演会等への講師派遣や消費者行政機関・団体との交流等を実施しております。本年度は年齢層別の啓発・教育プログラムを通じて、より多くの方々に身の回りのリスクを正しく認識していただき、損害保険を「備え」の手段として有効に活用していただけるよう取り組んでまいります。

(2)損害保険会社の健全性向上と確実な保険金支払いに資する取組み

 損害保険業は、万が一の際に、保険金のお支払いを通じてお客さまの生活や事業の再建を支える公共性の高い事業であり、損害保険会社には高度・多様・複雑化するリスクをマネージし、確実に保険金をお支払いすることが求められています。
 当協会では、各社が健全な財務基盤を確保し、大規模自然災害等の「有事」にあっても迅速かつ適正に保険金をお支払いできる態勢の整備に資する取組みを推進してまいります。

ア.地震保険に関する保険金支払い態勢の整備

 南海トラフ巨大地震や首都圏直下地震が発生した場合には、東日本大震災の数倍の被害が予想されます。そうした事態に備え、当協会では、昨年6月に財務省「地震保険制度に関するプロジェクトチーム・フォローアップ会合」で提起された「損害査定の簡素化」「損害区分の細分化」等の課題に対応し、大地震の際にも確実に保険金をお支払いできる態勢の整備に取り組んでまいります。
 また、当協会として、災害時に損害保険会社が保険金支払い態勢を迅速に整え、重要業務を安定的に稼働できるよう、BCP(事業継続計画)を策定しております。本年度は演習等を通じてBCPの課題を洗い出し、より実践的な内容に改善してまいります。

イ.国際保険監督規制への対応

 保険監督者国際機構(IAIS)において、金融システムの安定化、保険会社の財務の健全性やガバナンスの向上を目的とした国際保険監督規制の強化が検討されております。当協会では、IAIS等に対して建設的な意見を積極的に発信するとともに必要な対応を適切に行ってまいります。

ウ.サイバーセキュリティに関する取組み

 サイバー攻撃は、今や損害保険会社のみならず金融システム全体の安定性確保にとって極めて重大なリスクといえます。当協会では、損害保険各社でセキュリティインシデントが発生した際にそれを直ちに共有する態勢を整備するとともに、関係省庁と連携したセミナー・演習によるノウハウ共有等、各社間での共助による対策を進めてまいります。

(3)各種課題への取組み

ア.新たな募集態勢の構築に向けた取組み

 5月29日に募集プロセスの基本的なルール、代理店の体制整備義務等を定めた改正保険業法が施行され、より一層消費者視点の提案・説明が求められることとなりました。当協会では、各種ガイドラインの改定等を通じて改正保険業法への対応を進めてまいりましたが、引き続き損害保険各社・代理店とともに新たな募集ルールに適切に対応するよう取り組んでまいります。
 また、当協会では、2012年より募集人の専門性・スキルの向上を目的として、日本損害保険代理業協会と「損害保険大学課程」の教育プログラムを共同で運営しております。現在は、損保大学課程の中でも最上位に位置づけられる「損害保険トータルプランナー」として、約1万人の募集人が認定を受け全国で活躍しております。今後もお客さまから高く評価される募集人を数多く輩出するため、損保大学課程の受講を推進してまいります。

イ.保険相談・苦情・紛争解決に関する態勢強化

 中立・公正な立場から、一般的なご相談への対応やお客様と損害保険会社間のトラブル解決をサポートする「そんぽADRセンター」につきまして、質・量両面での一層の態勢強化を図ってまいります。

ウ.保険金詐欺・不正請求の防止等

 保険金詐欺や不正請求等の、保険制度の健全性を損なう行為を排除するため、損害保険各社共通のデータベースの拡充等を進めてまいります。

エ.アジア諸国へのインフラ支援

 当協会では、東アジア各国・諸地域に対する保険技術協力・交流プログラムとして、 1972年から毎年、日本国際保険学校(ISJ)を開校しているほか、関係団体と協力し料率算出制度等のソフトインフラに関するノウハウ提供に取り組んでおります。本年度も東アジア各国・諸地域のニーズに合った支援を、関係官庁とも連携しながら行ってまいります。

5.おわりに

 当協会は、来年5月に設立100周年を迎えます。
 損害保険業界は、戦後の我が国経済・社会の目覚ましい発展と足並みを揃え、国民経済を下支えするインフラとしての役割を果たすべく努めてまいりました。そしてこの間、海上保険から火災保険、自動車保険等への市場の拡大や保険自由化の到来、度重なる大規模自然災害の発生等、様々な環境の変化を経験し、多くのことを学んでまいりました。
 これから先の時代は、今までの延長線上にない形で経済・社会や自然環境の変化が生じる可能性がありますが、100年の学びを礎に、時代とともに変化し続けるリスクに挑んでまいりたいと思います

 保険は「人類が生み出した素晴らしい知恵・仕組み」であると考えております。損害保険各社・代理店がお客様に寄り添い、出来る限り多くの方々に万が一の際にも安心していただける商品・サービスをお届けすることで、社会からの期待にお応えできるよう力を尽くしてまいる所存です。

以 上

2016年6月  協会長就任ステートメント(PDFファイル)

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