協会長ステートメント
〜100年の学びを礎に、これからも安心と安全をお届けする〜

会長 北沢 利文


(2017.6.15)

日本損害保険協会会長として、この1年間の主な取組みや出来事を振り返り、ご報告と所感を申し上げます。

1.はじめに

北沢 利文

 昨年は、4月に発生した熊本における連続地震をはじめ、これまでは必ずしもリスクが高いとされていなかった地域でも地震・台風等の自然災害が相次ぎ、その脅威は全国に広まっていることを改めて認識させられました。自然災害に対するレジリエンス向上は、政府として我が国喫緊の課題に掲げており、当協会も検討会等に積極的に参加しているところであります。
 こうしたこともあり、当協会といたしましては、この1年間、地震保険の普及促進とともに、自然災害リスクに関する情報提供、防災・減災の啓発活動等を通じて、国民の皆様に災害への備えを促す取組みに力を注いでまいりました。引き続き、政府・自治体等とも連携し、「安心・安全な社会づくり」に貢献してまいりたいと考えております。

2.2016年度の取組み総括

 当協会では「新たな環境変化への対応」「災害・犯罪の防止または軽減」「消費者の保険利用環境の整備」を柱とする3か年計画「第7次中期基本計画」を定めております。中期基本計画の2年度目にあたる2016年度は、「リスク等に関する幅広い情報の発信」「損害保険会社の健全性向上と確実な保険金支払いに資する取組み」の2つの観点から関連する施策を重点的に推進し、「3つの柱」を着実に進めてまいりました。

(1)リスク等に関する幅広い情報の発信

ア.地震リスク・家計地震保険(以下、地震保険)への理解促進

 当協会では、我が国の地震リスクと、有効な「自助」の手段である地震保険の必要性について、積極的に情報を発信しております。
 昨年は、4月に熊本地震、10月に鳥取県中部地震が発生する等、我が国の地震リスクが一層顕在化しており、地震保険普及の担い手となる損害保険代理店の支援を中心に、取組みを強化いたしました。
 9月5日に開催した「地震保険制度創設50周年記念フォーラム」を起点として、全国30ヶ所で損害保険代理店向けのセミナー等を開催し、延べ3,600名の参加者が各々の地域の地震リスク等について理解を深めるよう取り組んでまいりました。また、お客様向け映像ツールの作成等を通じて損害保険代理店の地震保険普及を支援いたしました。その他、「50周年特設WEBサイト」の開設、マスメディアを通じての広報活動、地震体験イベント等、広く消費者に情報を発信してまいりました。
 こうした結果、地震保険の契約件数(保有)は、約1,771万件に拡大しており、地震保険の普及は年々着実に進んでおります。
 また、本年1月には「損害区分の細分化」「保険料率の改定」を中心とする地震保険制度の改定が実施されました。特に地震リスクが高く、保険料が引き上げとなる地域につきましては、地震保険の必要性をより一層丁寧にお伝えしていかなければならないと考えております。

(注)損害保険料率算出機構公表(2017年3月末現在)

  • 前年同月比104.6%(+77万件)
  • 2011年3月末(東日本大震災発生時)から6年間で約500万件増加

イ.自然災害等に対する防災・減災に向けた取組み

 当協会では、自然災害の防災・減災に向けた取組みに関する「重点取組み地域」(6地域)を定め、消費者や防災リーダー、消防団員等を対象に、当該地域のリスク特性を加味した防災イベントを実施いたしました。巨大災害の発生時には公的支援にもおのずと限界があり、命を守り、被害を減らすための地域住民の「自助」「共助」が欠かせません。各地の防災イベントでは、平時からの「備え」の必要性や、地域コミュニティにおける「助け合い」の重要性について情報を発信してまいりました。
 また、2004年度から実施している小学生向けの防災教育プログラム「ぼうさい探検隊」につきましては、咋年度、過去最多の19,158名の児童が参加し、2,871作品の応募がありました。これまでの参加児童数(累計)は15万名を超え、同種の取組みとしては全国最大規模となっております。こうした実践的な安全教育プログラムが学校教育現場において実施されるよう、文部科学省で検討されている次期学習指導要領への記載を積極的に働きかけてまいりました。
 これまでに当協会が積み重ねてきた防災・減災にかかる活動につきましては、本年3月の「第3回レジリエンス・アワード」(一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会主催)において、3つの取組みが優秀賞を受賞いたしました。

ウ.高齢者交通事故防止に資する取組み

 高齢者が被害者・加害者となる交通事故は年々大きな割合を占めるようになっております。当協会では、自治体や警察とも連携した、高齢者交通事故の防止に向けた取組みを推進し、社会的損失の低減に努めております。
 昨年度は、交通安全講習や戸別訪問等を通じて、全国59ヶ所、延べ34,000名の皆様に、運転時・歩行時の事故パターンや予防策について情報を提供いたしました。また、公益財団法人「交通事故総合分析センター」と共同で、高齢者特有の事故特性・要因をまとめた報告書を作成し、事故防止活動に活用していくこととしております。
 本年度からは、損害保険各社のOB・OGによる「損保あんしん・あんぜんアドバイザー」制度を立ち上げました。各社のOB・OGを推進役として、地域に密着した交通安全等の活動を強化することで、高齢者交通事故の防止に一層貢献していきたいと考えております。

エ.損害保険の理解促進に向けた取組み

 当協会では、消費者の皆様に損害保険を理解していただくための、様々な情報を発信しております。
 昨年度は、年齢層別の損害保険学習カリキュラムを一覧化した「損害保険・防災リテラシーマップ」を策定し、小学校・中学校・高校別の新たな教師向け副教材を提供する等、教育・啓発ツールの充実を図りました。
 また、高校生・大学生・消費者の皆様には、生活を取り巻くリスクや保険の役割等について理解を深めていただくための損害保険講演会を実施し、過去最多となる708回の講師派遣を行いました。
 引き続き、損害保険の理解促進に向けた取組みを推進してまいります。

(2)損害保険会社の健全性向上と確実な保険金支払いに資する取組み

ア.地震保険に関する保険金支払い態勢の整備

 当協会では、東日本大震災の数倍もの被害が想定される「南海トラフ巨大地震」や「首都直下地震」といった大地震が発生した際にも、損害保険各社が迅速かつ適正に保険金をお支払いできる態勢の整備に取り組んでおります。
 熊本地震や鳥取県中部地震では、保険金支払いの迅速化に向けてモバイル端末を利用した損害査定を一部実施いたしました。現在は、今後の利用拡大に向け、研修の実施や更なる機能改善を検討しております。また、大地震が発生した際の損害査定方法のオプションとして、損害状況申告書方式(立ち合い調査を省略した損害認定を可能とする方式)の対象を拡大いたしました。
 更に、損害保険各社が迅速に保険金支払い態勢を整え、重要業務を安定的に稼働できるよう、当協会のBCP(事業継続計画)に関する課題を洗い出し、より実効性を高めていくための見直しを進めております。

イ.国際保険監督規制への対応

 当協会では、国際保険監督基準の策定や各国・地域の保険監督規制の動向について、国際会議への出席や意見照会の機会等を通じて情報収集を行うとともに、我が国の損害保険業界の要望・意見を表明しております。
 保険監督者国際機構(IAIS)で策定が検討されている、「国際的に活動する保険グループ(IAIGs)に対する監督のための共通枠組み(ComFrame)」の一環として実施された、「国際保険資本基準(ICS)」の第二次市中協議や、「保険基本原則(ICP)」、「ComFrame改定」の市中協議において、意見を表明いたしました。
 国際保険監督基準は、将来、日本を含む各国当局において自国の保険監督規制として導入されるものであり、当協会といたしましては重要な取組みとして、引き続き積極的に意見表明を行ってまいります。

ウ.サイバーセキュリティに関する取組み

 サイバー攻撃の脅威が地球規模で深刻化する中で、当協会は関係各省庁と連携し最新の情報収集に努めるとともに、損害保険各社に演習への参加を促す等、セキュリティの強化に向けた支援を進めております。また、セキュリティインシデントが発生した際に、それを直ちに各社間で共有する等、共助による対策を推進しております。
 損害保険会社は、政府の定める、「その機能が停止、低下、又は利用不可能な状態に陥った場合に、わが国の国民生活又は社会経済活動に多大な影響を及ぼす」重要インフラ事業者にあたります。引き続きサイバーセキュリティの強化等に取り組んでまいります。

(3)各種課題への取組み

ア.新たな募集態勢の構築に向けた取組み

 昨年5月に募集プロセスの基本的なルール、代理店の体制整備義務等を定めた改正保険業法が施行され、消費者視点の提案・説明が一層求められることとなりました。当協会といたしましては、各種ガイドラインの改定等を通じて、損害保険各社・代理店の新たな募集ルールへの適切な対応を支援してまいりました。
 また、2012年より、募集人の専門性・スキルの向上を目的とした「損害保険大学課程」の教育プログラムを、日本損害保険代理業協会と共同運営しております。大学課程の中でも最上位に位置づけられる「損害保険トータルプランナー」の認定をめざす「コンサルティングコース」の受講申込者数は、本年度、過去最高の1,759名(前年比+301名)にのぼりました。これは、複雑・多様化するリスクへの対処を的確にコンサルティングできる、専門性の高い募集人に対する期待の高まりが背景にあると考えております。消費者の皆様の期待にお応えし、一層信頼される募集人の育成に向け、引き続き「損害保険トータルプランナー」を多く輩出する取組みを推進してまいります。

イ.保険相談・苦情・紛争解決に関する態勢強化

 当協会は、中立・公正な立場から一般的なご相談への対応やお客様と損害保険会社間のトラブル解決をサポートする機関として、全国10ヶ所に「そんぽADRセンター」を設置しております。
 昨年度は、紛争解決委員の増員等により同センターの態勢を拡充し、紛争解決手続きの際の面談による意見聴取を強化するとともに、各種研修プログラム等を通じて相談員の対応力向上を図ってまいりました。

ウ.保険金詐欺・不正請求の防止等

 当協会では、保険会社をまたがる不正請求疑義事案を早期に検知するため、様々な情報交換制度を設けております。2015年4月には、自動車保険をはじめ「ヒト」に関わる保険について、損害保険各社が過去の保険金請求歴を共有する「保険金請求歴情報交換制度」の運営を開始しております。
 昨年度は、不正請求対策の実効性を高めるために、同制度の対象を全ての保険種目に拡大するデータベースの構築を検討してまいりました。今後とも、適正な保険金支払いに向けたデータベースの拡充等、情報共有態勢を強化してまいります。

エ.アジア諸国へのインフラ支援

 当協会は、金融庁、損害保険料率算出機構、損害保険事業総合研究所と連携し、アジアの金融インフラ整備に資する保険技術協力を推進しております。
 本年5月には、当協会が創立100周年を迎えたことを機に、タイ・インドネシア・カンボジア・マレーシア・フィリピンの保険監督当局や保険協会のトップエグゼクティブを東京に招請し、「アジア損害保険エグゼクティブフォーラム」を開催いたしました。「社会からの信頼」、「ERM(統合リスク管理)」の2つのテーマについて活発な論議が行われ、アジア損害保険市場の課題や方向性について共通認識を深める機会となりました。
 また、昨年度は東アジア各国・諸地域に対する保険技術協力・交流プログラム「日本国際保険学校(ISJ)」を東京・ミャンマーで開催した他、東アジア保険会議やASEAN保険会議といった国際会議において、大震災への対応や防災・減災活動等、我が国の損害保険業界が培ってきた様々な知見やノウハウを発信してまいりました。
 今後とも、各国・諸地域との協力関係を一層深め、アジアの損害保険市場の健全な発展に貢献できるよう取り組んでまいります。

5.おわりに

 昨年6月には地震保険制度創設50周年、本年5月には当協会創立100周年を迎え、損害保険業界にとって大きな節目が続きました。今日損害保険が「社会・経済を下支えするインフラ」としての役割を担うに至るまで、多くの困難を乗り越えてきた関係各位の努力に心から敬意を表します。
 これから先の時代、頻発する大規模自然災害、テクノロジーの著しい進展、人口動態の変化等、社会・経済を取り巻く環境は、これまでにない形で大きく変化していくと考えられます。環境の変化に伴い複雑・多様化するリスクを適切にマネージし、健全な経営の下社会の要請に応える商品・サービスを提供するとともに、お客様を取り巻くリスクに対する的確な提案や、いざというときの確実な保険金支払いといった顧客本位の業務運営を徹底することで、当業界は更なる発展を続けていけるものと確信しております。
 次の100年も、損害保険が多くの方の支えとなり、社会から必要とされる産業であり続けられるように、弛まず努力してまいる所存です。

 最後になりますが、この1年間、皆様から暖かいご支援・ご協力をいただきましたことについて心より御礼申し上げます。

以 上

協会長ステートメント(2017年6月15日)(PDFファイル)