本記事では、自賠責保険の特徴や補償内容について解説します。
自賠責保険の正式名称は「自動車損害賠償責任保険」といい、自動車損害賠償保障法に基づき、すべての自動車に加入が義務づけられている強制保険です。多くの請求を迅速かつ公平に処理する必要性から、法律で定められた支払基準により、多くの部分が定型・定額化されています。自賠責保険の概要と補償範囲を詳しくみていきましょう。
自賠責保険の補償の範囲は、原則として相手と同乗者の人的損害の補償に限定されています。運転手自身の人的損害や車両・建物などの物的損害は含まれない点に、注意が必要です。なお、すべての保険会社が同一の補償内容を提供しているため、加入する保険会社による違いはありません。
自賠責保険では、保険金の支払額に上限が設定されており、高額な賠償責任が発生した場合には補償が不十分となる可能性があります。また、ケガをされた方の過失が100%の場合や故意に事故を起こした場合など、特定の状況下では保険金が支払われないケースもあることに注意が必要です。
自賠責保険では法律に基づいて、支払基準が定められています。支払基準では、傷害、後遺障害、死亡の3種類の損害に対する支払内容の記載があります。
※後遺障害とは、事故によって身体に回復が困難と見込まれる障害が残ったため、労働能力や日常生活に支障があると認められる場合をいいます
なお、被害者の損害額が支払限度額を超えた場合や自賠責保険で認定されない損害が発生した場合は、加害者本人や、加害者が自賠責保険とは別に加入する自動車保険から賠償を受けることになります。
傷害による損害の場合、支払限度額は被害者1名につき120万円です。 支払限度額の範囲で支払われる項目は、以下のとおりです。
●治療関係費
●文書料
●休業損害
●慰謝料
●その他の費用
治療に関する費用として支払われる内容は、以下のとおりです。
これらの治療関係費は、交通事故による損害と因果関係が認められる範囲内で実費(一部費用は定額)が支払われます。必要以上に高額な費用や、交通事故によって生じたケガと認められない場合の治療費については、支払いが認められない可能性があるため注意しましょう。
自賠責保険への請求のために発行した文書の手数料は、支払いの対象となります。
●交通事故証明書の発行手数料
●被害者側の印鑑証明書・住民票等の発行手数料
交通事故によるケガで収入が減少した場合や休みを取得した場合に、支払いの対象となります。有給休暇を使用した場合や、家事従事者がケガにより家事に携われなくなった場合も対象です。
支払基準では、原則として1日につき6,100円が支払われます。ただし、これ以上に収入減の立証がある場合は、支払われる限度額は19,000円となります。
精神的・肉体的な苦痛に対する補償として慰謝料が支払われます。支払基準では、1日につき4,300円が支払われ、慰謝料の対象となる日数は治療期間の範囲内で判断されます。
その他の費用として、事故現場から医療機関まで被害者を搬送する費用なども、必要かつ妥当な実費の範囲で支払われます。
後遺障害による損害の場合、身体に残った障害の程度に応じた保険金が支払われます。後遺障害の等級によって支払限度額は異なります。
支払限度額の範囲で支払われる項目は、以下のとおりです。
●逸失利益
●慰謝料等
身体に障害が残り労働能力が減少したために、将来発生すると考えられる収入減に対して支払われます。支払額は、収入および各等級に応じた労働能力喪失率、喪失期間などにより計算されます。
精神的・肉体的な苦痛に対する補償として、慰謝料が支払われます。介護を要する場合は、後遺障害等級に応じて(第1級)1,650万円~(第2級)1,203万円が支払われます。これに加え、初期費用等が加算され、慰謝料等として支払われます。初期費用は、(第1級)500万円、(第2級)205万円が加算されます。一方、それ以外の後遺障害の場合は、後遺障害等級に応じて(第1級)1,150万円~(第14級)32万円の慰謝料が支払われます。
死亡による損害の場合、支払限度額は被害者1名につき3,000万円です。 支払限度額の範囲で支払われる項目は、以下のとおりです。
●葬儀費
●逸失利益
●慰謝料
通夜、祭壇、火葬、埋葬、墓石などに要する費用として、100万円が支払われます。なお、墓地の費用や香典返しの費用などは対象外です。
被害者が死亡しなければ将来得ることができたと考えられる収入金額から、本人の生活費を控除した金額が支払われます。収入および就労可能期間、扶養者の有無などを考慮のうえ計算されます。
被害者本人の慰謝料として、400万円が支払われます。これに加え、遺族等に対する慰謝料も支払われます。請求権者(被害者の配偶者、子供および父母)の人数に応じて、金額は異なります。
なお、被害者に被扶養者がいる場合は、さらに200万円が加算されます。
一般的に損害賠償では、被害者にも過失がある場合、その割合だけ損害賠償額から減額される(被害者の自己負担になる)ことが原則です。しかし、自賠責保険は被害者保護の観点から、被害者に重大な過失がない限り損害賠償額は減額されません。被害者の過失が70%未満で、ケガの総損害額が120万円以下であれば、自賠責保険によって認定される損害賠償額は全額支払われます。
被害者の過失割合別の減額率は、以下のとおりです。
自賠責保険では、傷害、後遺障害、死亡により支払限度額が定めれられています。しかし、加害車両が複数ある場合は、加害者は連帯して被害者の損害を賠償しなくてはならないため、支払限度額は加害車両の数に応じて増額されます。
例として、ケガによる総損害額が150万円(被害者の過失なし)であったケースを以下の表にまとめています。
ただし、支払限度額が増えるだけで、実際に受け取れる損害賠償金が増加するわけではない点に、注意が必要です。あくまでも自賠責保険は、交通事故によって生じた損害に対して支払われます。したがって、上記の例では加害車両が2台であっても総損害額は150万円であるため、支払限度額240万円が支払われるのではなく、150万円が損害賠償金として支払われます。
また、被害者に重大な過失があった場合は損害賠償額が減額されるため、注意が必要です。
なお、加害車両が複数いる場合でも、損害額が120万円以内に収まる場合は、いずれか1台の自賠責保険に請求することで問題ありません。
自賠責保険から支払われる額を超える損害が発生した場合、その超過分は加害者から賠償されます。対人賠償責任保険(共済含む)の普及率は8~9割であるため、多くの交通事故では加害者が加入する自動車保険から賠償されます。
加害者が自動車保険に未加入の場合は、直接加害者から賠償してもらうことになります。
被害者が加入している自動車保険(人身傷害補償保険など)により補償を受けられる場合もあるため、自賠責保険から支払われる額を超える可能性がある場合は、自身が加入している自動車保険の保険会社に相談してみてもよいでしょう。
交通事故の被害に遭った際、まずは自賠責保険から補償されます。この保険は人的損害のみが対象とされ、車両などの物的損害は補償されません。補償内容や仕組みを理解し、万一の事故でも適切に対応できるようにしましょう。