多くの交通事故の場合、交渉は保険会社の示談交渉サービスを通じて行われます。本記事では、被害者にケガなどがあった場合の示談の基本から、示談交渉サービスを利用した際の流れ、注意点まで詳しく解説します。保険会社がどのように交渉を進めるのか、被害者は何に気をつけるべきかを理解することでスムーズに解決できるので、ぜひ参考にしてください。
交通事故における示談は、民事訴訟(裁判)以外での話し合いによる解決方法です。示談を行う主な目的は、事故の責任割合の決定と損害賠償額の合意です。示談では加害者と被害者が直接、または保険会社を介して交渉を進めます。合意内容は書面化されるので、将来のトラブル防止に役立ちます。なお、示談成立後は両者に合意事項を守る責任が生じるため、通常その内容を変更できません。
交通事故では人的損害と物的損害が併発するケースが多く、示談は通常、ケガ(人身)と物(物損)に分けて行われます。本記事では、人身事故に関する示談の流れに焦点を当てて解説します。
交通事故(人身事故)の示談の流れは、以下のとおりです。
それぞれ詳しくみていきましょう。
交通事故の示談は、必要な治療をすべて終えてから始まります。症状が完治、またはこれ以上の回復が認められない状態(症状固定)に達してから、示談手続きを行いましょう。
治療が終わると電話、郵送などを使って保険会社から示談案が提示されます。提示される損害賠償金の内訳は一般的に、以下のとおりです。
●治療費
●慰謝料(入通院慰謝料)
●休業損害 など
ケガの他に携行品や自動車にも損害があった場合、物的損害に関する示談案が先に提示されることが多いです。
提示内容に納得できない場合は、保険会社の担当者にその旨を伝えましょう。納得できる内容であれば、保険会社に同意の意思を伝えます。保険会社とのやり取りが書類の場合は、必要事項を記入のうえ、保険会社に返送します。
示談が成立すると、保険会社から免責証書が送付されるので、必要事項を記載してください。記載する際は、以下の項目について確認しましょう。
また、交渉結果が正確に反映されているかどうかも重要です。なお、示談成立に至らない場合は、民事訴訟(裁判)や民事調停に進む可能性があります。
示談が成立すると、合意された解決金(賠償金)が指定した口座に振り込まれ、交通事故に関する賠償手続きが完了します。
交通事故の示談がまとまらない場合、主な選択肢として、裁判外紛争解決手続、民事調停、民事訴訟(裁判)などが挙げられます。
示談での合意が難しく、かつ民事訴訟(裁判)も避けたい場合は、裁判外紛争解決手続または民事調停が適しています。裁判外紛争解決手続は、公正な第三者が関与して紛争の解決を図る手続きです。民事調停は、裁判所が設置する調停機関が仲介し、当事者双方で譲り合いながら合意に基づいて解決を目指す方法です。
民事訴訟(裁判)に進んだ場合、裁判官による公正な判断が期待できます。しかし、損害賠償請求にあたっては、受傷の事実、治療の必要性、妥当と考える損害賠償額などをすべて自分で立証しなければならないため、弁護士に依頼することが一般的です。
民事訴訟(裁判)には長期化するリスクや経済的負担が発生するおそれがあるため、裁判費用や弁護士費用などの出費を考慮する必要があります。交通事故の民事訴訟(裁判)の詳しい流れについては、以下の記事をご覧ください。
交通事故の示談は被害者自身でも対応できるものの、実際には手間や労力がかかります。また、示談には高い専門性が必要とされるため、加害者と話をまとめられないこともあるでしょう。
交通事故の示談をスムーズに進めるために、示談交渉サービスの利用がおすすめです。示談交渉サービスについて、以下3つの観点から解説します。
●被害者が加入するの保険会社の示談交渉サービスを利用する場合
●加害者の保険会社から示談交渉サービスを受ける場合
●示談交渉サービスのメリット
被害者にも責任がある場合、対人賠償責任保険・対物賠償責任保険に加入していれば、自身に代わって保険会社が加害者と交渉を行ってもらえる可能性があります。車両保険・人身傷害補償保険は、被害者自身に対する補償のため、示談交渉サービスは行われません。
加害者が対人賠償責任保険・対物賠償責任保険に加入している場合、その保険会社の示談交渉サービスを受けられる可能性があります。なお、示談交渉サービスを受けられないケースは、下記「示談交渉サービスが行われないケースがある」で解説します。
交通事故の被害に遭った場合、保険会社による示談交渉サービスの利用が効果的です。示談交渉サービスは被害者の負担を軽減しつつ、適切な賠償を受けるための対応を受けられます。ただし、被害者が利用できるのは自身にも責任がある場合に限られます。
示談交渉サービスの主なメリットは、以下のとおりです。
●被害者の時間と労力の大幅な節約
●保険会社の専門知識を活かした適切な対応
●複雑な法的手続きや交渉のサポート
●公平で適切な賠償金額の交渉
物(物損)に関する示談については、被害者に責任がある場合は被害者が加入する保険会社も交渉に参加できます。これにより、保険会社同士で双方の立場を考慮した公平な交渉が可能となり、より適切な解決策を見出せる可能性が高まるでしょう。
交通事故の被害に遭った場合、被害者または加害者が加入している保険会社の示談交渉サービスを利用することが基本となります。しかし、ケースによっては示談交渉サービスが利用できない(提供されない)、または制限される場合があります。
ここからは、被害者が加入する示談交渉サービスおよび加害者が加入している示談交渉サービスが利用できないケースを解説します。
●被害者に責任がない場合
被害者が自動車保険に加入していても、自身に一切の責任がない場合は示談交渉サービスを利用できません。加害者への損害賠償が発生しないことから、対人・対物賠償責任保険の適用外となるためです。
このようなケースでは、被害者自身が相手方と直接交渉するか、弁護士に依頼をして交渉を進める必要があります。なお、弁護士費用特約に加入していれば、被害者の責任有無にかかわらず利用可能です。弁護士費用特約を活用することで、弁護士報酬などの費用負担を軽減できます。
●加害者が自動車保険(対人・対物賠償責任保険)に加入していない場合
被害者は、加害者が加入する自動車保険の保険会社が提供する示談交渉サービスを受けて交渉を進めます。そのため、加害者が対人・対物賠償責任保険に加入していない場合、示談交渉サービスを利用できません。
交通事故の示談の流れを理解すると、示談成立までがスムーズになります。ただし、加害者が保険未加入の場合や、自身に責任がない事故の場合は、示談交渉サービスを利用できないケースがあります。これらのリスクに備えるため、自身の契約内容を事前に確認しておくことが大切です。