役員雇用保険

2026/03/27

役員の責任はどこまで及ぶ?役員を取り巻くリスクと
備え方を解説

役員はどのようなリスクにさらされ、また、どのような備えが必要なのでしょうか。

本記事では、役員が直面しやすい経営リスクや雇用トラブル、備えとして有効な会社役員賠償責任保険(D&O保険)や雇用慣行賠償責任保険(EPL保険・特約)について解説します。

目次

雇用トラブルは役員の責任?役員が直面する主なリスクと責任

役員を取り巻くリスクに対する補償①:会社役員賠償責任保険(D&O保険)

役員を取り巻くリスクに対する補償②:雇用慣行賠償責任保険(EPL保険・特約)

役員を取り巻くリスクに備えよう

雇用トラブルは役員の責任?役員が直面する主なリスクと責任

役員は単に会社を運営するだけでなく、経営判断や労務管理など、企業活動の中枢に関わる立場です。その結果、一般の従業員とは異なる、役員特有の法的・経営上のリスクを負うことになります。

まずは、役員がどのようなリスクにさらされているのかを正しく理解し、その上で適切な備えを検討することが重要です。

経営上のリスク

役員は、会社経営に関わる立場として、さまざまな経営上のリスクを負っています。特に重要なのが、法的責任を伴う経営判断リスクです。

例えば、役員は会社法上「善管注意義務」や「忠実義務」を負っています。善管注意義務とは、「経営者として、通常求められる程度の注意をもって業務を行う義務」を指し、忠実義務とは、「会社のために誠実に職務を遂行する義務」を指します。

これらを怠った場合、役員は損害賠償責任を問われる可能性があります。このとき、役員個人に対して責任追及が行われた場合の訴訟費用は、原則として役員個人の負担となります。

また、損害賠償請求権は相続の対象にもなります。つまり、万が一役員本人に不測の事態があった場合でも、責任が消えるとは限らず、家族や相続人が訴訟対応や支払いを求められる可能性があるということです。

こうした賠償責任請求は、大きく次の2つに分けられます。

  • 内部からの損害賠償責任請求
  • 外部からの損害賠償責任請求


それぞれについて、具体的に見ていきましょう。

内部からの損害賠償責任の請求|株主代表訴訟等

内部からの請求とは、株主や会社自身が、役員に対して責任追及を行うケースを指します。
代表的なものが、株主代表訴訟です。これは、会社に損害を与えたとして、株主が会社に代わって役員の責任を追及する訴訟です。また、取締役の善管注意義務違反などを理由に、会社そのものが役員へ損害賠償を請求するケースもあります。

近年、株主代表訴訟のリスクは高まっているといわれています。その背景の1つが、平成15年の商法改正です。法改正により、株主代表訴訟を提起する際の手数料(印紙代)が下がり、平成15年(平成16年4月1日施行)で、一律13,000円となりました。

訴訟を起こすハードルが下がり、役員にとっては法的責任を追及されるリスクが高まったといえます。

外部からの損害賠償責任の請求|第三者訴訟

外部からの請求とは、取引先、債権者、金融機関、行政機関などの第三者が役員の責任を追及するケースです。

例えば、次のようなケースが考えられます。

  • 取引先からの損害賠償請求(契約違反、誤発注、情報漏えいなど)
  • 行政調査や行政処分への対応(景品表示法、独占禁止法、下請法などの法令違反)

特に中小企業では、株主代表訴訟よりも第三者訴訟が問題になりやすい傾向があります。
中小企業では株主が経営者本人や親族、近しい関係者で構成されているケースが多く、上場企業に比べて株主代表訴訟が起こりにくいためです。

その一方で、取引先や行政など外部との関係でトラブルが顕在化しやすく、第三者訴訟で会社からお金を回収することが難しそうな場合、代表取締役個人に対して損害賠償請求されるケースがあるため、中小企業においては第三者からの責任追及リスクが相対的に高くなるといえます。

ハラスメント等の雇用トラブルのリスク

役員が負うリスクは、経営判断に関するものだけではありません。人事・雇用に関するトラブルにおいても、経営層の責任が問われるケースがあります。

特に、ハラスメントや不当解雇といった雇用トラブルは企業内部で発生しやすく、対応を誤ると訴訟に発展するリスクを伴います。
このようなトラブルが起きた場合、企業としての責任が問われるのはもちろんですが、状況によっては役員個人の責任にまで発展する可能性があります。そのため、雇用トラブルへの対応は、単なる現場レベルの問題ではなく、経営リスクの1つとして捉える必要があります。

特に近年は、法改正により企業に求められる対応水準が引き上げられており、「知らなかった」「現場任せだった」といった理由では通用しないケースも増えています。
その代表例が、改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)です。

パワハラ防止法で求められる経営者の対応

改正労働施策総合推進法により、企業にはハラスメントを防止するための体制を整備する義務が課されています。この法律は、2020年6月に施行され、2022年4月からは中小企業にも義務化されています。

同法で求められているのは、単にハラスメント行為を禁止することだけではありません。具体的には、次のような組織的な対応が求められています。

  • 事業主の方針などの明確化およびその周知・啓発
  • 相談窓口の設置や、相談に適切に対応できる体制の整備
  • 事案発生時の迅速かつ適切な対応

これらの対応は、人事・総務部門だけに任せるものではなく、経営層が主導して整備・運用すべき「組織的責任」と位置づけられています。

そのため、防止体制の整備や運用が不十分だった場合には、まず企業が使用者責任や安全配慮義務違反に問われます。さらに、「組織的な放置や対応の不備が悪質」と判断された場合には、会社法第429条に基づき、役員個人の責任にまで発展する可能性があります。

ハラスメント対策は、法令遵守の観点だけでなく、企業の評判を守り、人材流出を防ぐという意味でも、経営上の重要なリスク管理施策といえるでしょう。

このように、雇用・労務トラブルは企業内部の問題でありながら、役員個人にまで影響が及ぶリスクをはらんでいます。また、業界や業態、企業規模によっては、他にも注意すべきリスクが潜んでいるため注意が必要です。こうしたリスクに備える手段としては、次章で解説する雇用慣行賠償責任保険(EPL保険)の活用が検討できます。

なお、自社にとってどのようなリスクが高いかを把握する際は、ぜひ「6大リスク診断」をご活用ください。

役員を取り巻くリスクに対する補償①:
会社役員賠償責任保険(D&O保険)

役員個人に対する損害賠償請求リスクに備える保険として、まず挙げられるのが会社役員賠償責任保険(D&O保険)です。

会社役員賠償責任保険(D&O保険)とは

会社役員賠償責任保険(D&O保険)は、取締役や監査役、執行役員などが、職務上の行為により損害賠償を請求された場合に、その損害を補償する保険です。

役員は、経営判断や業務執行に関して、会社法上の善管注意義務や忠実義務を負っており、判断の結果によっては会社内部や第三者から法的責任を追及される立場にあります。このような場合、たとえ悪意や故意がなかったとしても訴訟対応そのものが役員個人にとって大きな負担となる可能性があります。

D&O保険は、こうした役員個人が負う法的責任リスクを軽減し、安心して経営判断を行うためのリスクマネジメント手段として活用されています。

会社役員賠償責任保険(D&O保険)の補償範囲

D&O保険は、損害賠償金だけでなく、争訟費用や社内調査費用等も補償範囲に含まれます。

補償対象 ● 取締役
● 監査役
● 執行役員 など
補償内容 ● 損害賠償金
● 訴訟費用
● 社内調査費用 など
主な補償ケース ● 株主代表訴訟
● 会社訴訟
● 第三者訴訟 など

D&O保険の特徴は、経営判断そのものが問われた場合でも補償の対象となり得る点にあります。

たとえ故意や重大な過失がなくても、結果として会社に損害が生じた場合には、役員個人が法的責任を追及されるケースも少なくありません。また、株主代表訴訟や第三者訴訟では、最終的な結論が出るまでに長期間を要することが多く、その間に弁護士対応や調査対応など、多くの時間と労力、費用が発生します。

D&O保険は、このような負担を軽減することで、役員が萎縮せずに経営判断を行える環境を整える役割を果たします。

特に中小企業では、役員個人と会社の財産が近い関係にあるケースも多く、役員個人の責任がそのまま生活や家族に影響する可能性があります。その意味でも、D&O保険は経営者個人を守る備えとして重要性の高い保険といえるでしょう。

役員を取り巻くリスクに対する補償②:
雇用慣行賠償責任保険(EPL保険・特約)

雇用慣行賠償責任保険(EPL保険・特約)は、雇用トラブルに関する訴訟リスクをカバーする保険で、一般的に、「業務災害総合保険」等の業務災害を補償する保険にオプションとして追加することが可能です。

雇用慣行賠償責任保険(EPL保険・特約)とは

雇用慣行賠償責任保険(EPL保険・特約)は、企業が従業員や元従業員との間で生じた雇用・労務トラブルを原因として訴えられた場合に、その損害を補償する保険です。

対象となるトラブルには、次のようなものがあります。

  • パワーハラスメント
  • セクシュアルハラスメント
  • マタニティハラスメント
  • 不当解雇
  • 差別的取り扱い

雇用慣行賠償責任保険(EPL保険・特約)の補償範囲

EPL保険の補償の対象や内容は保険会社によって異なりますが、一般的には会社だけでなく、役員や管理職まで補償対象に含まれる点が特徴です。

代表的な補償対象・補償内容は次のとおりです。

補償対象 ● 会社
● 役員
● 管理職 など
補償内容 ● 損害賠償金
● 争訟費用

訴訟では損害賠償金だけでなく、結果が確定する前の段階から多額の費用が発生します。EPL保険は、こうした費用負担をカバーすることで、企業や経営層が冷静に対応できる環境を整える役割を果たします。

特に中小企業では、役員や管理職が現場の人事対応に直接関与するケースも多いため、会社単位だけでなく、役員・管理職まで含めて備えられるEPL保険はリスクヘッジ手段として有用性が高いといえるでしょう。「業務災害総合保険」等の業務災害を補償する保険に加入している場合は、EPL保険がセットされているか確認してみましょう。

役員を取り巻くリスクに備えよう

役員は立場上、経営判断や雇用トラブルなど、さまざまなリスクにさらされています。そのため、役員を守るためには、民間保険などを活用して自ら備えることが重要です。

D&O保険は、経営判断などに起因する外部からの訴訟リスクに、EPL保険は、従業員との雇用トラブルといった内部リスクに対応できます。企業の規模や業態によって必要な備えは異なるため、自社のリスク特性を把握した上で、両者を補完的に組み合わせて検討することも有効です。

具体的な保険の選び方や補償内容については、保険会社や損害保険代理店に相談しながら検討するのがおすすめです。自社に適切な補償を設計してもらえます。

役員を守る手段として、ぜひ保険の活用も検討してみてください。