企業リスク
2026/03/27
企業リスクとは?業種別の事故事例とリスクマネジメントの考え方を解説
企業活動には、従業員の労災事故や取引先とのトラブル、自然災害等による事業への影響など、日々さまざまなリスクが潜んでいます。このような「企業リスク」は、ひとたび発生すれば金銭的損失だけでなく、信用低下や事業停止など、経営そのものに深刻な影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、企業を取り巻く主なリスクを「6大リスク」に分類し、それぞれの具体的な損害事例とリスクに対する備えを解説します。業種別の事故事例や保険による具体的な備えについても解説しますので、自社のリスクマネジメントのヒントとして参考にしてください。
企業リスクとは?リスクの種類と具体例
企業活動には、業種や規模を問わず多様なリスクが存在します。まずは、企業経営において代表的なリスクを整理し、全体像を把握しておくことが重要です。
ここでは、企業を取り巻くリスクを「6大リスク」に分類して解説します。
企業財産のリスク
企業財産のリスクとは、建物・設備・商品・在庫など、企業が保有・使用する資産に損害が生じるリスクを指します。火災や落雷・風水害などの自然災害、盗難など、突発的に発生するケースが多く、被害規模が大きくなりやすい点が特徴です。
これらの損害は、修繕費用や設備の買い替え費用といった直接的な損失にとどまらず、生産ラインの停止や営業休止による売上減少など、利益損失へ波及する可能性が高い点にも注意が必要です。
例えば、工場火災により主要設備を失った場合、設備復旧までの間は生産が止まり、取引先への供給遅延や契約トラブルにつながることもあります。早期復旧に必要な資金を確保するために保険による備えを検討することが大切です。
経営者・役員のリスク
経営者・役員のリスクは、経営判断や経営体制そのものに関わるリスクです。経営者の病気や死亡、重大な経営判断ミス、法令違反、雇用トラブルなどが該当します。
企業には労務管理や安全配慮義務が課されており、違反した場合、損害賠償請求や訴訟に発展する可能性があります。また、ハラスメントについても法整備が進んでおり、パワハラ防止措置(労働施策総合推進法)は2022年4月から全企業が対象に、さらにセクハラ防止措置も企業規模を問わず義務化されています。
法令に違反した場合、役員個人の責任が追及される可能性があります。
従業員のリスク
従業員に関わるトラブルから生じるのが、従業員のリスクです。例えば、労災事故、ハラスメントなどが挙げられます。
労災事故による治療費・補償費、ハラスメント訴訟に伴う慰謝料や和解金など、企業に大きな影響を及ぼす恐れがあります。トラブルが生じないよう、日頃から社内コンプライアンスの遵守を徹底することが重要です。
事業中断・利益減少のリスク
事業中断・利益減少のリスクは、自然災害や感染症の拡大などにより、事業の継続が困難になるリスクを指します。取引先の倒産やサプライチェーンの断絶により操業が停止するケースや、感染症拡大による売上減なども含まれます。
予測が難しく突発的に発生するケースが多い上、事業に深刻な影響を及ぼす事例も少なくありません。
事業中断・利益減少のリスクについては、緊急事態に直面した際の事業継続または早期復旧のための計画を指すBCP(事業継続計画)の策定や、早期復旧に必要な資金を確保するために保険による備えが重要になります。
賠償責任のリスク
賠償責任のリスクとは、契約上のトラブルや法令違反などにより、法的責任を問われるリスクです。例えば、取引先との契約不履行、知的財産の侵害、コンプライアンス違反、顧客情報の漏えい・サイバー攻撃による損害賠償リスクなどがあります。
近年は、個人情報保護法をはじめとする法令遵守の範囲が拡大し、違反時の罰則も厳格化しています。また、サイバー攻撃の発生件数は 増加しており、いまや大企業だけでなく中小企業が標的となるケースもあるため、企業規模に関わらず注意が必要です。
賠償責任のリスクにかかるトラブルは、金銭面だけでなく、営業停止、信用・イメージの低下など、企業経営全体に長期的な影響を及ぼす恐れがあります。自社で生じ得るケースを想定して備えることが重要です。
社用車のリスク
社用車のリスクは、業務中の交通事故などにより生じる損害を指します。例えば、相手方の死傷、相手車両や第三者の財物損害、運転者・搭乗者の死傷、社用車自体の損害などです。
配送業務や営業活動で日常的に車両を使用する企業ほど、発生頻度が高くなりやすい傾向にあります。ひとたび重大事故が起きると、多額の賠償責任を負う可能性があるため、自動車保険などを活用して、業種や業態に合わせたリスク対策が重要です。
企業のリスクマネジメントの考え方
リスクの発生を完全に防ぐことはできません。だからこそ、企業経営においてはリスク発生時の損害を最小限に抑える「備え」が重要になります。ここでは、企業リスクを把握・管理するための基本的な考え方と、保険の活用を解説します。
なお、自社に潜むリスクを把握する際には、こちらの「6大リスク診断」をご活用ください。リスクの深刻度やリスクに備える保険を簡単に確認できます。
リスクマネジメントの4つのステップ
リスクマネジメントは、次の4つのステップで進めるのが基本です。
1. リスクの洗い出し
2. リスクの分析・評価
3. リスク対応の方針決定
4. 定期的なモニタリングと改善
まずは、自社の業務内容や取引先、保有資産、人員体制などを確認し、事故やトラブルにつながり得る潜在的なリスクを洗い出します。この際、総務や人事を担当する部門だけでなく、例えば財務、営業、法務など部門横断で行うことがポイントです。
次に、洗い出したリスクを「発生頻度」と「損害規模」の観点から整理し、優先順位をつけます。
その上で、各リスクへの対処法を「回避」「低減」「移転」「保有」に分類し、どれで対処するかを決定します。詳しくは、次章の「企業リスクの分類と対応方針」で解説します。
経営環境の変化や法改正、事業拡大などに応じてリスク構造は変化するため、策定したリスク対策は、定期的に見直すことが重要です。
企業リスクの分類と対応方針
洗い出したリスクへの対処法は、損害規模と発生頻度の観点から、次の4つに分類できます。
損害規模は小さいものの発生頻度が高いリスクは、BCPの策定や教育・訓練などでリスクを「低減」し、損害規模は大きいものの発生頻度が低いリスクについては、保険を活用してリスクを「移転」するなど、リスクの性質に応じた対応が求められます。
保険の活用によるリスクへの備え
企業リスクへの備えとして、保険は有用な手段です。リスクごとに「備え」として検討できる保険を整理すると、次のようになります。
保険の種類は多く、自社のリスクに応じて必要な補償を選択することが重要になります。
また、保険により補償内容が重複するケースもあるため、無駄のない設計をするためには、保険会社や損害保険代理店に相談しながら検討するのがおすすめです。
なお、紹介した各保険については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ぜひあわせてご覧ください。
業種別に見る企業リスクと事故事例
業種によって、直面するリスクの種類や発生頻度、影響の大きさは異なります。そのため、まずは自社と近い業種のリスク構造を把握することが大切です。
本章では、製造業、卸売業・小売業、建設業、サービス業の4業種について、特徴的なリスクと実際の事故事例を紹介します。注意すべきリスクやポイントをみていきましょう。
製造業におけるリスクと事故事例
製造業は、工場や設備、在庫などに関わる「財産リスク」と、製品欠陥による事故やリコール対応等の製造物責任に対する「賠償リスク」が特に高い業種です。例えば、工場火災や機械故障によって生産ラインが停止すると、修繕費用だけでなく、操業停止による売上減少や取引先への影響など、甚大な損害につながる可能性があります。
近年は、海外への輸出やOEM供給を行う企業も増えており、国や地域ごとの法令・品質基準の違いに起因するリスクが高まっており、リスクへの備えがさらに重要になっています。
事故事例1
製造業では、自社が製造した部品そのものだけでなく、その部品を使用して完成した製品全体に損害が波及するケースがあります。
本事例でも、欠陥があったのはモーター部品でしたが、電子レンジ本体の廃棄費用や原材料費、販売機会を失ったことによる逸失利益まで賠償請求の対象となりました。本件については、当該企業が生産物賠償責任保険(PL保険)に加入していたため 、製品の欠陥が原因で第三者に与えた損害賠償責任に対応することができました。
事故事例2
本事例は、台風による浸水被害により、商品や設備什器が使用不能となり、多額の損害が発生したケースです。
火災保険に加入していたため、自社が所有する商品・設備が補償対象となりました。
製造業では、建物の所有形態にかかわらず、設備や在庫といった自社資産が、どこまで補償対象となっているかを事前に確認し、自然災害を含めた備えを行っておくことが重要です。
卸売業・小売業におけるリスクと事故事例
卸売業・小売業では、納品作業中の事故による従業員の労災等の「従業員のリスク」や、販売した商品に対する製品不良等の「賠償責任のリスク」が発生しやすい傾向にあります。あわせて、物流拠点や店舗、倉庫など複数拠点を運営することから、火災・水災・盗難といった「企業財産のリスク」が複数で発生しやすい点が特徴です。
また、顧客データや決済情報を扱う業態であるため、情報漏えいやサイバー攻撃への対策も欠かせません。さらに、サプライチェーン上の取引先トラブルや納期遅延など、「事業中断・利益減少のリスク」が経営に影響を及ぼすケースもあります
事故事例1
スーパーなどの小売店舗では、不特定多数の顧客が出入りするため、転倒事故などの顧客事故が発生しやすい点が特徴です。本事例では、床の濡れによる滑りやすい状態が原因となり、治療費や慰謝料などの損害賠償が発生しました。
施設賠償責任保険に加入しておくことで、店舗の管理不備が原因となる対人事故に伴う賠償責任に備えることができます。日常的な清掃や注意喚起といった事故防止策とあわせて、保険による備えの大切さが分かる事例です。
事故事例2
ECサイトを運営する卸売・小売業では、顧客の個人情報や決済情報を扱うため、サイバー攻撃による情報漏えいリスクが高いという特徴があります。本事例では、不正利用への賠償対応に加え、漏えい範囲を特定するためのログ調査など、事故後の対応コストが大きな負担となりました。
サイバー保険を活用することで、損害賠償金だけでなく、原因調査や対応費用といった事故対応に伴う費用にも備えることができます。事前のセキュリティ対策とあわせて、事故が発生した際の損害賠償に対する備えを行うことも重要だといえるでしょう。
建設業におけるリスクと事故事例
建設業は、現場作業を伴うことから、「従業員のリスク」と「賠償リスク」が特に高い業種です。墜落や感電、重機による事故など、労災事故が発生しやすく、ひとたび事故が起きると、治療費や休業補償、損害賠償といった対応が必要になります。
また、天候や地盤条件、協力会社との連携ミスなど、予期せぬ要因によって工期遅延が発生することもあります。
建設業は元請・下請間の契約関係が複雑な場合が多く、遅延や事故が発生した際に、責任範囲を巡るトラブルや損害賠償請求に発展しやすい点も特徴です。
事故事例1
建設業では、工事現場でリース・レンタル機材を使用するケースが多く、豪雨や台風などの自然災害によって借用財物が損壊するリスクがあります。本事例では、河川敷という立地条件もあり、豪雨による急激な水位上昇によって重機や発電機が水没し、多額の賠償費用が発生しました。
リース品・レンタル品の修理費用や買替費用といった賠償リスクには、請負賠償責任保険に借用財物損壊担保特約を付帯することで備えることができます。
事故事例2
建設業では、天候の影響を受けやすい現場環境において、安全配慮義務の判断が厳しく問われる傾向があります。本事例では、台風接近という危険が予見できた状況下で作業を継続したことが安全管理上の問題と判断され、重度障害を伴う労災事故として高額な損害賠償請求につながりました。
労災保険による給付だけでは補いきれない損害については、労働災害総合保険や使用者賠償責任保険を活用することで、従業員やその家族からの損害賠償請求に備えることができます。
サービス業におけるリスクと事故事例
サービス業は顧客との接点が多いことから、顧客トラブルやサイバー攻撃による顧客情報の流出等の「賠償リスク」が発生しやすい業種です。
サイバー攻撃に関しては、大企業だけでなく中小企業も狙われるケースがあり、企業規模に関わらず備えが必要です。
また、サービス業は人の労働力に依存する割合が高い労働集約型産業であるため、従業員の離職やハラスメント、労務訴訟といった「従業員のリスク」が高い点も特徴です。
さらに、SNS炎上や口コミ・レビューによる風評被害などの信用リスクも見逃せません。ひとたび評判が悪化すると、集客や売上に長期的な影響を与えるおそれがあります。
事故事例1
飲食店では、提供した料理や飲料が原因となって顧客に健康被害を与えた場合、生産物責任(PL)に基づく賠償責任を負う可能性があります。本事例のように集団食中毒が発生すると、治療費だけでなく、被害者の休業損害や慰謝料など、賠償額が高額になりやすい点が特徴です。
生産物賠償責任保険(PL保険)に加入していれば、このような食中毒事故に伴う損害賠償請求に備えることができます。衛生管理や従業員教育といった事故防止策とあわせて、万一の事態に備えた保険による対策を講じておくことが重要です。
事故事例2
宿泊業では、火災や事故が発生した場合、建物や設備の損害だけでなく、客室の使用停止による売上減少や営業継続のための追加費用が大きな負担となります。本事例では、延焼した客室の休業に加え、営業を継続するための設備投資や人件費の増加が発生しました。
休業補償保険を活用することで、休業期間中の利益減少に加え、営業を続けるために必要となった追加費用にも備えることができます。宿泊業では、事故後の経営への影響を見据え、休業リスクへの備えを検討しておくことが大切です。
適切なリスクマネジメントで持続可能な経営を実現しよう
企業リスクは、業種や事業内容によって発生しやすい種類や影響の大きさが異なります。そのため、同業種・同規模の企業で起きた事故事例を参考にしながら、自社に近いリスクを把握し、どのような損害が起こり得るのかを具体的にイメージすることが重要です。
その上で、リスクの性質に応じた対策を検討し、必要に応じて保険による備えを組み合わせていきましょう。
保険を活用した備えを行う場合は、保険会社や損害保険代理店に相談するのがおすすめです。自社に潜むリスクを踏まえた無駄のない補償設計についてアドバイスを受けることができます。
企業リスクを適切に把握し、安定した持続可能な経営につなげていきましょう。