河川災害に備える座談会を長野県で開催

台風19号災害から1年、水災害リスクに強い地域づくり、人づくりを目指して

 日本損害保険協会 北関東支部(小宮 健一・東京海上日動火災保険株式会社 執行役員 長野支店長)では、長野県に洪水被害をもたらした令和元年台風第19号から1年を迎えることから、信濃毎日新聞株式会社(代表取締役社長:小坂壮太郎)との共催で、河川災害に備える座談会を長野市で開催しました。

 「台風19号災害から1年、水災害リスクに強い地域づくり、人づくりを目指して」をテーマに、令和元年台風19号が長野県でもたらした災害の状況・原因を被災者・有識者・行政の各観点から振り返ったうえで、長野県の今後の水害リスクや行政による治水対策を踏まえ県民がどのように自ら備えていくべきか、生活再建を支えるための資金の課題をどのように考えていくのか、などについて考えました。

 当日は、感染症予防のため無観客で開催しましたが、長野県民に広く周知し備えに役立てていただくため、10月11日発行の信濃毎日新聞特集号ONE NAGANOの第9面に記事を掲載しました。また、動画共有サイトYouTubeからご覧いただける動画を信濃毎日新聞社のアカウントで公開しています。

【座談会】台風19号災害から1年~水災害リスクに強い地域づくり、人づくりを目指して~(YouTube)

【座談会】台風19号災害から1年~水災害リスクに強い地域づくり、人づくりを目指して~

開催概要

~「ゼロリスク」はあり得ない~
信州大学工学部 
水環境・土木工学科教授
吉谷 純一さん

2019年台風19号と1959年の洪水では、同じ地域で被害が生じた。両水害を比較すると、台風19号の雨量が多かったにも関わらず、被害が小さかった。治水対策の効果ともいえるが、それでも被害が発生したのは、「災害の規模には上限」がないということです。
台風19号では、長野市長沼地区で「越水は想定していたが、堤防の決壊は全くの想定外だった」という住民の言葉を聞いたが、越水しても絶対に決壊しない堤防はありえません。また、決壊地点近くでは高速の氾濫流で家屋が壊れるので、家の2階への避難では危ないのです。堤防があるからといって安心せず、早く確実に避難すること、そのために、どういう災害が発生し得るか正しい知識を持つことが重要です。
千曲川流域は山で囲まれているので、大雨は降りにくいが、川沿いを開発しているので被害を受けやすい。そうした中、長期的な視点でどのように安全な街づくりをしていくかも課題です。

信州大学工学部 水環境・土木工学科教授
吉谷 純一さん

~ハード対策と避難、どちらも重要~
国土交通省北陸地方整備局
千曲川河川事務所長
齋藤 充さん

台風19号を受けて、「信濃川水系緊急治水プロジェクト」を立ち上げ、2027年度までにハード・ソフト対策を一体的・緊急的に進めていく。台風19号による千曲川の決壊箇所を含む140m区間の復旧は今年6月に完了。「越水しても決壊しにくい粘り強い堤防」の整備や河道掘削、遊水池などで水位を低下させる対策を進めていく。また、水災害対策は河川の管理者だけでなく、流域のあらゆる関係者が協働して備える「流域治水」の考え方へと進んでいます。千曲川で5月に全ての利水ダムと治水協定を結び、実際に今年7月の大雨の際には事前放流を実施したのもその一つです。
ハード対策と同時に、早い避難も重要。長野市稲生の堤防決壊で被災した世帯に実施したアンケートでは、氾濫発生の頃に避難した人が最多でした。河川事務所では、川の水位や雨量、川の様子のカメラ画像をスマートフォンで配信しており、こうした情報を参考に避難していただきたいです。

国土交通省北陸地方整備局 千曲川河川事務所長
齋藤 充さん

~避難、どう誘導するかが課題~
長野市長沼地区住民自治協議会長
西澤 清文さん

台風19号の経験を踏まえ、逃げ遅れを出さないために、どのように誘導するかが課題です。「逃げろ」と呼びかけても断られた例もありましたが、手を引っ張ってでも避難させるべきだったかもしれません。長沼地区に設置した災害対策本部が安全な場所に移転するとき、住民に「対策本部が一旦撤収する」というメッセージを残せば、危機感を持ってくれたかもしれません。
被災後、長沼地区住民のアンケートで「今、必要なもの」を尋ねたところ、「お金」との回答が目立ちました。高齢者世帯は特に、保険がなければ家を直せません。地域の財産(集会所・公民館)は行政の支援で何とか建て替えの目途がつきましたが、神社や寺院は公的支援が難しいことから、直せていません。備えがないと、必ず憂いがあると痛感しています。

長野市長沼地区住民自治協議会長
西澤 清文さん

~「自分の命は自らが守る」意識を~
長野県危機管理部長
竹内 善彦さん

台風19号で1700人を超える人が浸水区域から救助された。県と市町村では、「自分の命は自らが守る」と意識、していただき、適切な避難行動をとってもらうため、「逃げ遅れプロジェクト」を始めました。ハザードマップを確認してリスクを正しく理解すること、危険な場所から避難すること、様々な避難先を確保することなどをお願いしています。ハザードマップ通りに必ずしも災害が発生するとは言えませんが、まず、災害を自分事として考えていただきたいと思います。
県では、見舞金や生活再建のための支援金などに取り組んでいますが、公的支援には限界があるため、保険・共済に加入し、備えておくことが大切です。「信州地震保険・共済加入促進協議会」でも加入を呼び掛けています。

長野県危機管理部長
竹内 善彦さん

~ためらわず避難する「行動力」が重要~
コーディネータージャーナリスト・日本ペンクラブ会員
森 隆さん

これまで、地震・豪雨災害、その後の生活再建の一助となる保険をテーマに取材してきました。長野市稲穂などの被災状況を目の当たりにして、水害の恐ろしさを改めて感じました。過去の災害の歴史から何を学び、どう生かすのかが私たちの課題です。
2018年の西日本豪雨でも、2011年の東日本大震災でも、危険を予測する「判断力」と、ためらわずに避難する「行動力」によって助かった命がありました。震災後に作られた石碑の一つに「100回逃げて、100回来なくても、101回目には必ず逃げて」という中学生の言葉が刻まれています。これこそが避難の基本だと思います。

コーディネーター ジャーナリスト・日本ペンクラブ会員
森 隆さん

座談会の様子
座談会の様子
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