協会長ステートメント
会長 原 典之

日本損害保険協会長として、この1年間の主な取組みや出来事を振り返り、ご報告と所感を申し上げます。

1.はじめに

 この1年を振り返ると、昨年7月の九州北部豪雨や、記録上初めて「超大型」のまま日本列島に上陸した台風21号、今年2月の北陸豪雪など、過去に経験のないような自然災害が数多く発生し、各地に大きな被害をもたらしました。改めまして、お亡くなりになられた皆さまに哀悼の意を表しますとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
 損害保険業界といたしましては、被害に遭われた皆様への迅速かつ適切な保険金のお支払いはもちろんのこと、防災・減災など平時の取組みにも一層注力し、安心・安全な社会を支えるインフラとしての役割・使命を果たしていきます。

2.第7次中期基本計画の完遂と第8次中期基本計画の策定・開始

 2017年度は、第7次中期基本計画(2015年度~2017年度)の最終年度であり、「損害保険業の健全な発展と信頼性向上を通じて『安心・安全な社会づくり』に貢献する」という同計画の目標達成に向け、重点課題を中心に総仕上げに取り組んできました。主な取組みは、後記「3.一年間の取組みについて」のとおりです。
 こうした取組みと並行して、第8次中期基本計画(2018年度~2020年度)を策定し、本年4月からスタートいたしました。同計画は、創立100周年を迎えた当協会が新たな時代へ次の一歩を踏み出す土台となるものです。過去100年の振り返りと今後の環境予測等をもとに、損害保険業界がこれからも持続的に成長していくために目指すべき方向性を「環境変化への迅速・的確な対応」、「お客さま視点での業務運営の推進」、「より強固で安定的な保険制度の確立」および「国際保険市場におけるさらなる役割の発揮」という4つに整理し、それぞれの方向性において、当協会が重点的に取り組むべき課題を設定いたしました。重点課題は「技術革新への対応」、「保険会社・代理店の業務品質の向上」など11項目に亘り、既にそれぞれ取組みを開始しています。各重点課題について、今後、より一層取組みを加速していきます。

3.一年間の取組みについて

(1)創立100周年記念式典の開催

 昨年5月に「創立100周年」という当協会の大きな節目を迎えたことを踏まえ、損害保険業界のこれまでの歩みを振り返るとともに、業界の将来像を展望することを目的に、昨年11月に記念式典を開催いたしました。
 式典には、次代の損害保険業界を担う中堅・若手職員を中心に業界関係者が多数集まり、パネルディスカッションでは各分野の有識者から損害保険業界が未来に向けて飛躍するための示唆に富んだご意見等が披露されるなど、大変有意義なものとなりました。

(2)自然災害への取組み

ア.防災・減災に向けた取組み

 自治体や関係機関等と連携し、様々な方法で防災・減災に資する情報発信や意識啓発などの取組みを推進してきました。
 昨年11月に宮城県仙台市で開催された「防災推進国民大会2017」への参画を始め、各地域で数多くの防災イベントを実施いたしました。各イベントでは、当該地域のリスク特性を考慮するとともに、巨大地震等の災害発生時には国や自治体などの公助だけでは限界があり自助・共助が重要となることを踏まえ、例えば防災リーダーの育成など、地域防災力の向上に資するプログラムを提供し、多くの方に耳を傾けていただきました 。
 また、本年3月には防災情報のポータルサイト「そんぽ防災Web」をオープンし、Web上での幅広い情報提供も開始いたしました。同サイトでは、気象庁等の協力を得て、過去の風水害の被災状況と支払保険金に関するデータベースを公表するなど、損害保険業界ならではの切り口で、防災に有益な情報をご提供しています。
 小学生向けの防災教育プログラム「ぼうさい探検隊」マップコンクールの取組みは2017年度で14回目を迎えました。自然災害に対する社会的関心の高まりなどを背景に、本取組みは着実に裾野を広げており、今回も前回を上回る538団体から申込みをいただき、16,370名の児童に参加いただきました。これまでの累計は、5,024団体・167,547名に上るなど、同種の取組みとしては全国最大規模となっています。

イ.地震保険の普及促進と業界の態勢整備

 首都直下地震や南海トラフ巨大地震等の発生が見込まれる中、地震保険について、より一層の普及促進と、業界としての態勢整備に努めてきました。
 普及促進としては、マスメディアを通じた広報活動のほか、全国12か所のイオンモールで地震体験イベントを開催し、延べ13,761名の方に参加いただくなど、広く消費者に地震保険をPRしてきました。また、長野県や神奈川県横浜市では、自治体の防災取組みと連動する形で地震保険イベントを開催するなど、効果的に地震保険の加入を呼びかけました。さらに、地震保険普及の担い手となる損害保険代理店に対する取組みにも力を入れ、全国14か所で損害保険代理店向けセミナーを開催し、延べ1,400名の募集人の方に、各地域の地震リスクに対する理解を深めていただきました。こうした取組みの結果、2018年2月末の地震保険保有契約件数は、前年から約55万件増加し、約1,817万件となりました。第7次中期基本計画開始前の2015年3月末と比べると約168万件の増加になります。 
 一方で、巨大地震が発生した場合に、地震保険の迅速・的確な損害処理を確保するための態勢整備も進めてきました。保険会社の社員や損害保険登録鑑定人向けの研修ツール等を整備し、損害調査時にモバイル端末を活用する方法を一層促進しました。また、会員各社と連動した当協会の事業継続計画を見直し、会員各社が迅速に保険金の支払い態勢を整えるなど重要業務を安定的に稼働できるよう、当協会が優先して対応する業務を明確化しました。あわせて、首都直下地震が発生して当協会の本部機能が失われる事態が発生した場合に、代替拠点である近畿支部がよりスムーズに機能するよう対応態勢を見直したほか、事業継続全体のマネジメント態勢を整備し、一層強固なものにしました。

(3)グローバル化への取組み

ア.アジア諸国に対する保険技術支援の取組み

 国内外の関係機関等と連携し、アジア諸国・地域に対する保険技術支援の取組みを推進してきました。
 昨年9月には、東アジア諸国・地域に対する技術援助として開講している国際的保険研修プログラム「日本国際保険学校」の海外セミナーをインドネシアで開催いたしました。同セミナーは1993年から20年以上に亘り開催しており、これまでに延べ約5,000名に参加いただきました。
 また、一昨年度に同セミナーを開催したミャンマーでは、保険協会の設立に向け、関係機関と連携してワークショップやセミナーを開催するなど、各種支援を行いました。1月に開催された同協会の設立記念式典では、当協会と協力関係の覚書を締結し、これまでの取組みにより築かれた両国の友好関係を一層強化していくことを確認しています。
 このほか、昨年11月には、ASEAN加盟国の全ての保険協会(8か国・13協会)で構成されるASEAN保険協会と、本年5月には、新たにフィリピン損害保険協会と、それぞれ協力関係の覚書を締結することについて合意いたしました。特に、フィリピン損害保険協会は、私自身も往訪して覚書の締結を呼びかけたものであり、着実な支援を通じて両国の更なる発展につなげていきたいと考えます。

イ.国際規制等に対する意見発信

 国際保険監督規制に関する動向等を注視し、日本の損害保険業界への影響を勘案しつつ、要望・提言等の意見を発信してきました。
 国際的に活動する保険グループを対象として、保険監督者国際機構(IAIS)が開発を進める定量的な保険資本基準(ICS)のVersion2.0については、当協会より「当面はモニタリング指標のようなソフトな基準として適用を開始すべき」などの意見を提出いたしました。その後、この意見どおり、「当初5年間はモニタリング期間と位置付ける」ことなどがIAISより示され、当協会の意見に沿った方向で検討が進められることになりました。

ウ.海外関係機関等との連携強化

 グローバル化が進む保険市場において、わが国の損害保険業界がしかるべき役割を発揮できるよう、海外関係機関等との連携強化を図ってきました。
 昨年9月に、国際海上保険連合(IUMI)の年次総会が東京で開催されました。IUMIは40か国・地域の保険協会等によって構成される海上保険に係る連合組織であり、日本での総会開催は2006年以来11年ぶりになります。当日は35か国・地域から約630名に参加いただき、当協会は開催国ホスト協会として、参加各国の海上保険事業者との関係を深めました。
 また、海外保険協会との関係強化にも努めました。昨年6月の協会長就任以後、2017年度末までに、私自身で、英国、インドネシア、マレーシア、タイ、4つの保険協会を訪問いたしました。さらに、本年5月には、フィリピン損害保険協会を訪問するとともに、来日された韓国の損害保険協会長ともお会いしました。いずれの保険協会とも、それぞれの国の現状や課題を踏まえた有益な意見交換を行うことができ、あわせて当協会との緊密な関係を一層深めていくことを確認いたしました。

(4)業務品質の向上に向けた取組み

ア.ガイドラインのフォローアップ

 当協会では、会員会社が保険募集や保険金支払い等の業務を運営する際の参考に供するため、各種ガイドラインを定めています。昨年、金融庁より「顧客本位の業務運営に関する原則」が示され、各社においてはこれまで以上に業務運営のレベルアップが求められています。こうした中、当協会のガイドラインも重要性を増していることから、今般、これらのフォローアップを実施いたしました。具体的には業務運営に係る12のガイドラインについて、会員各社における活用状況や実際の業務運営状況をアンケートにより確認いたしました。
 アンケートの結果、いずれのガイドラインも各社の業務運営に活用されていることや、各社独自の取組み事例などが確認されました。アンケート結果は、業務運営の改善に活かせるよう、各社にフィードバックいたしました。
 今後は、アンケートの結果等を踏まえ、改めてガイドラインの内容の適切性を確認し、見直しが必要と判断される場合は、必要な改廃作業等を行っていきます。また、損害保険業界として、絶えず業務運営のレベルアップを図るPDCAサイクルを回していくため、ガイドラインについて適時・適切なフォローアップの仕組みを整備していきます。

イ.損害保険トータルプランナーの増加に向けた取組み

 業界全体の募集品質を向上させる観点から、当協会が認定する募集人資格の最高峰「損害保険トータルプランナー」を増加させるべく、取組みを進めてきました。
 様々なPRや周知活動等により、損害保険トータルプランナーの認定取得者数は着実に増加し、第7次中期基本計画開始前の2015年3月末時点の9,575名から、2018年3月末時点では12,474名に増加いたしました。
 また、損害保険トータルプランナーの認定取得にあたり受講が必須となる損害保険大学課程「コンサルティングコース」教育プログラムの受講申込者数も増加傾向にあり、本年4月開講分の受講申込者数は、前回から476名増加し、過去最高の2,235名となりました。さらに、募集人がこれまで以上に損害保険トータルプランナーを目指しやすくなるよう、来年4月開講分より、同教育プログラムの受講料を10%引き下げることも決定いたしました。
 高品質な募集活動がさらに広がるよう、今後も、損害保険トータルプランナーの周知活動や認定取得に向けた魅力向上に取り組んでいきます。

ウ.マネー・ローンダリング等への対応

 国際社会においてテロ等の脅威が増す中、マネー・ローンダリングやテロリストへの資金供与の未然防止の重要性も高まっています。わが国においては、2019年にFATF(Financial Action Task Force、金融活動作業部会)による第4次対日相互審査も予定されており、健全な金融システムを維持するため、官民が連携してより一層の体制強化を図ることが必要となっています。
 こうした中、金融庁では「マネーローンダリング・テロ資金供与対策企画室」を設置し、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を策定するなど、取組みが進められています。個々の金融機関においても、より堅牢な管理態勢を構築することが求められていることから、今般、当協会内に「マネー・ローンダリング等対策PT」を設置いたしました。本PTでは、金融庁をはじめとする関係当局との連携強化や、会員会社に対する情報の周知、会員各社のガイドライン対応の支援などを予定しています。今後、本PTを通じた取組みにより、会員各社に対して着実な体制強化を促していきます。

4.おわりに

 国内を見渡すと、急速に進展する少子高齢化により労働力人口が減少していく中、労働参加率の向上や技術革新による生産性向上が社会の大きな課題となっています。一方、昨年の世界同時サイバーテロのように、技術革新の負の側面として、サイバーリスク等も顕在化しています。また、一昨年の熊本地震以降も各地で頻発する地震や昨年の九州北部豪雨のように局地化・集中化・激甚化する傾向にある豪雨など、自然災害への対策の重要性も一段と高まっています。
 昨年6月の就任時のステートメントでも述べたとおり、私たち損害保険業界はこれまで、社会の変化に適切に対応することにより着実な成長を遂げてきました。今後もこうした社会の変化・課題を適切に捉え、リスクの専門家という立場から安心・安全な社会づくりを下支えすることにより、社会とともに、持続的に成長していくことを目指していきます。
 当協会創立100周年という節目の年に協会長を仰せつかりましたが、皆さまの温かいご支援のおかげで、この1年間着実に取組みを進め、大任を果たすことができました。改めて、心より厚く御礼申し上げます。
 最後になりますが、引き続き、損害保険業界および当協会に対するご理解・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

以 上

2018年6月 協会長ステートメント

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