協会長ステートメント
会長 広瀬 伸一

 本年6月末に日本損害保険協会会長に就任して以降の主な取組みにつきまして、ご報告と所感を申し上げます。

1.はじめに

 令和2年7月豪雨ならびに台風9号、10号により、九州地方を中心に大きな被害がもたらされました。これらの自然災害によりお亡くなりになられた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、ご遺族および被害を受けられた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
 被災された皆さまが一日も早く日常生活を取り戻せるよう、しっかりと使命を果たしてまいる所存です

2.新型コロナウイルス感染症への対応について

 会員各社は、当協会が定めた「新型コロナウイルス感染症対策に関する基本方針」に則り、保険契約の募集・締結から保険金支払い、さらには大規模自然災害の発生時における様々な対応におきましても、お客さま、代理店、従業員等の感染拡大防止に最大限努めながら、お客さまが必要とする商品・サービスの提供を維持、継続するべく努めております。
 そうした中、会員各社では、新型コロナウイルスによる直接、間接の影響を受けられたお客さまに対して、継続契約の手続きや保険料のお支払いについて猶予するなどの契約手続きに関する特別措置を実施しております。これまでも会員各社は、電話や郵送、インターネット等を用いた非対面手続きに取り組んでまいりましたが、感染拡大の防止や新しい生活様式に対応するため、デジタルなどの新たなテクノロジーを活用し、非対面での手続きの対象拡大やペーパーレス・押印レスの取組みを推進する会社も増加しております。
 また、会員各社は、補償の見直しにも鋭意取り組んでおります。一部の会員会社では、傷害保険の特約において、新型コロナウイルス感染症を特定感染症相当として保険金支払いができるよう改定をしたり、入院要件についても緩和し、医師の指示による自宅やホテルなどでの療養についても、入院保険金のお支払い対象とするなどの対応を行っております。また、お客さまからのご意見、ご要望も踏まえ、新型コロナウイルス感染症への補償を拡大した休業補償商品の販売を予定している会員会社もあります。
 これらに留まることなく、新型コロナウイルスの影響がある中においても、お客さまをしっかりお守りする商品・サービスの提供に加え、いざというときの親身な対応を通じて、安心と安全をお届けするべく、引き続き、出来る限りの創意工夫をしてまいります。

3.今年度の重点取組みについて

(1)自然災害への対応力強化

 今年も豪雨や台風による大規模な災害が発生しておりますが、当協会では、自然災害に強い社会の構築に向けて、いかなる状況においても適正かつ迅速な保険金のお支払いを実現できるよう、様々な取組みを進めております。

ア.風水害に対する取組み

 当協会では、令和2年7月豪雨の被害状況を踏まえ、豪雨の発災直後に「2020年度自然災害対策本部」を設置いたしました。これまでは、自然災害の発生の都度、災害の規模に応じて対策本部を設置しておりましたが、昨今の自然災害の激甚化・多発化を踏まえ、今年度はその方式を改め、年間を通じて大規模災害に対応できる態勢を整えることとしたものです。
 先般の台風10号の接近に際しては、特別警報級の勢力にまで発達するとの予測を踏まえ、当協会として、あらかじめ会員会社に対して万全の態勢で備えるよう要請するとともに、当協会のホームページで災害に備えるための情報提供を行いました。会員各社は、台風の上陸・最接近に備えて、お客さまへの事前の情報提供や台風接近前の週末からコールセンター態勢の拡充を図るなどの対応を行っております。
 また、昨年12月に設置した自然災害対応検討プロジェクトチームを中心に、自然災害対応に関する業界課題の解決に向けて、次のような検討・取組みを進めております。 

  • (ア)大規模な水災が発生した際に、適正かつ迅速に保険金をお支払いするために、被災状況を早期に確認する手法について検討しております。直近では、JAXA(宇宙航空研究開発機構)などの人工衛星画像を利用して、被災状況を業界共同で確認するスキームの検討に着手いたしました。
  • (イ)大規模自然災害が発生した際に、お客さまに保険金請求を促す取組みとして、「Yahoo!JAPAN」「Yahoo!防災速報アプリ」への情報掲載を開始しました。従来、避難所等のお客さまに対しては、チラシなどの紙媒体を中心に、会員各社の受付窓口などをご案内しておりましたが、スマートフォンのアプリケーション等を通じて、より迅速かつ手軽に情報を確認できる環境を整備いたしました。今後、更なる情報発信の高度化を図り、お客さまへの周知を図ってまいります。
  • (ウ)大規模自然災害に便乗して修理費の不正請求を持ち掛けるなどといった悪質商法等のトラブルを未然に防ぐため、国民生活センターと連携し、国民の皆さまに悪質商法を行う業者に関するトラブル事例等を周知してまいりましたが、今般新たに消費者庁とも連携することで、令和2年7月豪雨で被災された皆さまに対して、より広範囲に注意喚起を行いました。
  • (エ)全国各地で河川の氾濫・越水等による水災が発生している中、国民の皆さまに、お住まいの地域の水災リスクを事前に認識いただく上では、各自治体等が発行するハザードマップを活用いただくことが有効です。今般、当協会では防災コンテンツ紹介ツールを作成し、日本損害保険代理業協会とも連携しながら、ハザードマップの活用を推進する取組みを強化しております。

イ.地震災害に対する取組み

 東日本大震災から10年となる今年度は、「今年、もう一度見直す年に。」をキャッチコピーとする、地震保険の広報活動を展開しています。若い世代のご家庭にも地震保険の必要性をご認識いただくべく、タレントの中尾明慶さん・仲里依紗さんを広報キャラクターとして起用し、地震保険の理解と加入の促進を図っております。また、スマートフォン等を利用し、広く国民の皆さまが地震後の生活を簡単にシミュレーションできるデジタルコンテンツ「地震10秒診断」をリリースいたしました。
 引き続き動画コンテンツや地震保険特設サイトの更なる充実を図り、国民の皆さまにより分かり易く地震のリスクをお伝えすることで、経済的な備えとしての地震保険の周知、啓発に努めてまいります。

(2)金融・損害保険リテラシーの向上

 自然災害の激甚化・多発化に加えて、新型コロナウイルスの影響等、社会の不確実性が増している中で、国民の皆さまが安心して生活し、企業が元気に活動を続けるために、損害保険リテラシーの向上を当協会の重要な役割と位置づけ、取組みを進めております。
 当協会が全国各地の大学で実施している連続講座や、他の金融団体と連携して開催する金融連携講座については、新型コロナウイルスの感染防止の観点から、従来の集合形式からオンライン・オンデマンド型に変更して講義を実施しております。
 また、これまで17年連続で実施している小学生向けプログラム「ぼうさい探検隊」につきましては、今年は感染防止のため、大人数での「まち探検」は控えていただいておりますが、昨年度開発した「ぼうさい探検隊アプリ」を搭載したタブレットを無料で貸し出し、少人数グループやご家庭などでも、防災について手軽に学んでいただける取組みを継続しております。
 新型コロナウイルスの感染防止に配慮し、新しい生活様式にも対応できるよう、引き続き様々な工夫を凝らしながら、損害保険リテラシーの向上に取り組んでまいります。 

(3)業務の共通化・標準化の推進

 当協会では、損害保険に係る業務の共通化・標準化を進めることで、業務効率の向上を図り、お客さまの利便性向上に繋げる取組みを進めておりますが、その取組みを一層推進するため、本年7月、協会内に会員各社をメンバーとする「事務検討特別部会」を設置いたしました。控除証明書発行機能の共同化については、本部会で具体的な要件やシステム開発を進めております。
 加えて、共同保険における会員各社間の情報交換において、一定の紙業務が存在しておりますが、今般、ブロックチェーン技術を活用したデジタルでの情報交換について、効果検証を開始することといたしました。引き続き、こうした新たなテクノロジーも活用しながら、業務効率の向上、お客さまの利便性向上に資する検討を進めてまいります。
 そうした中、新型コロナウイルスの存在を前提とした新しい生活様式に対応するため、社会全体で書面・押印・対面での手続きを前提とした業務慣行を見直す機運が高まっております。当協会においても、従来の共通化・標準化に向けた取組みと合わせ、それらの業務慣行の見直しを進めております。お客さまとの接点はもとより、業界内、会員会社間に顕在化する課題について、政府の方針とも足並みを揃えながら、着実に取組みを進めてまいります。

(4)各種課題への取組み

ア.高齢者への取組み

 高齢者の交通事故防止に向けて、協会各支部では地元警察本部等と連携し、反射材付きチラシを提供しております。
 また、人身事故の半数以上を占める交差点・交差点付近での交通事故の防止・軽減を目的として「全国交通事故多発交差点マップ」を、今年度も公表いたしました。本マップは、企業等の交通安全研修やカーナビへの情報連携など、様々な場面で活用されています。
 当協会では、今後も、警察や自治体等と連携し、交通事故の防止・軽減に取り組んでまいります。

イ.サイバーリスクに関する取組み

 テレワークの浸透等に伴い、企業のサイバーリスクはますます高まっているとの認識にありますが、昨年、中小企業経営者を対象に実施した「サイバーリスク意識調査2019」では、中小企業の4社に1社がサイバー攻撃への対策を実施していない状況であることが判明いたしました。本年10月には、改めて企業のセキュリティ意識や、サイバー保険の認知度の実態把握を目的としたアンケート調査を実施いたします。今後もチラシや動画等を活用した啓発活動を推進するとともに、「サイバー保険特設サイト」のコンテンツも拡充してまいります。 

ウ.新興国市場への各種支援の取組み

 東アジア諸地域に対する保険技術協力・研修プログラムとして、1972年から毎年日本国際保険学校(ISJ)を開催しています。今年度は新型コロナウイルスの影響を踏まえ、WEB活用やペーパーレス化によるプログラムの改善を行う等、オンラインでの支援を中心に取組みを継続してまいります。  
 また、経済発展に伴って急速に拡大するミャンマー保険市場の健全な発展に資するべく、現地損害保険会社の社員向けに保険金支払い実務についてWEB研修を実施いたしました。
 引き続き、アジア各国・地域の損害保険市場の健全な発展と成長に向けて、関係省庁・団体との連携のもと取り組んでまいります。 

エ.令和3年度税制改正要望

 本年7月開催の当協会理事会において、「令和3年度税制改正要望」を取りまとめました。本年度は、激甚化・多発化する自然災害に備える火災保険等に係る異常危険準備金制度の一層の充実など9項目を掲げ、要望の実現に向けて関係各方面に対して働きかけを行ってまいります。

4.おわりに

 協会長就任時より、新型コロナウイルス感染症への対応に加え、「自然災害への対応力強化」、「金融・損害保険リテラシーの向上」、「業務の共通化・標準化の推進」に重点を置き、様々な取組みを進めております。今年度は第8次中期基本計画の最終年度であり、当初より掲げている各種課題についても着実に対応を進めてまいります。
 新型コロナウイルスが社会・経済へ影響を及ぼし続けています。こうした環境の中でも、損害保険業界として新たに認識した課題や環境変化へ着実に対応し、国民の皆さまの安心・安全を支え続ける社会インフラとしての役割を果たし続けられるよう、力を尽くしてまいります。

 引き続き皆さまのご支援・ご協力を宜しくお願い申し上げます。

以 上

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