協会長ステートメント
会長 広瀬 伸一

 協会長に就任して約6か月が経過しました。その間の主な取組みにつきまして、ご報告と所感を申し上げます。

1.はじめに

 新型コロナウイルスの感染が欧米を中心に再拡大しております。日本国内においても全国的に感染が急拡大しており、改めて感染拡大防止に向けた対策の徹底が求められています。ウィズコロナの常態化が、人々の生活や企業活動の在り方に大きな影響を及ぼしています。

 こうした状況においても、会員会社は、当協会が定めた「新型コロナウイルス感染症に関する基本方針」を遵守し、お客さまに必要な商品やサービスをお届けできるよう業務を継続しております。当協会では、更なる感染拡大を防止するため、基本方針の中に「感染リスクが高まる場面」等を新たに整理し、12月15日付で会員会社に対して感染拡大防止を徹底するよう要請いたしました。

 新型コロナウイルスに対応する商品開発については、会員会社がそれぞれお客さまのご要望に耳を傾け、補償内容の見直しに鋭意取り組んでいるものと承知しております。また、契約手続きや保険金支払いについては、多くの会員会社でオンライン等を活用した非対面の仕組みを拡充し、感染防止対策を進めております。

 近年、激甚化・多発化している自然災害発生時の保険金支払いについては、新型コロナウイルスの感染が拡大する中でも迅速かつ適切に保険金をお届けすることで、お客さまの期待に応えることが重要であると認識しています。今年度は、九州地方を中心に豪雨や台風により大きな被害を受けましたが、会員会社は、インターネットによる事故受付や経過報告、保険金支払い等、各種システムを活用した非対面での業務フローの構築を進めています。

 また、政府から書面・押印・対面を原則とした制度や慣行を見直す方針が示されております。この方針は、当協会が取組みを進めている「業務の共通化・標準化の推進」とも合致しておりますので、関係省庁とも連携の上、積極的に対応してまいります。

 引き続き創意工夫を重ねながら、損害保険業界として新たに認識した課題や環境変化へ柔軟かつ機動的に対応してまいります。

2.今年度の重点取組みについて

(1)自然災害への対応力強化

 当協会では、激甚化・多発化する自然災害に対して、損害保険業界に期待される社会的役割を発揮するための取組みを進めております。

ア.風水災に対する取組み

 自然災害対応検討プロジェクトチームを中心に、次の取組みを進めております。

  • (ア)大規模な水災が発生した際に、被災状況を早期に把握し、迅速に保険金をお支払いするため、最新のデジタルテクノロジー等を活用した新しい手法を検討しております。一つの例として、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と連携し、当協会から会員会社へ人工衛星画像を提供する業界共同スキームの実証実験を開始いたします。今後は、画像データの実践活用・研究を進めつつ、保険金支払いに必要な情報を当協会から会員会社へ提供する機能をスキームに追加すべく、画像データ分析ベンダーとの連携要領について検討を深めていきます。
  • (イ)河川の氾濫・越水等による水災を未然に防ぐためには、あらゆる関係者が協働して対応する「流域治水」に取組むことが重要です。当協会では、国土交通省から講師をお招きし、7月に公表された「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方についての答申」の会員会社向け説明会を開催いたしました。また、国民の皆さまがハザード情報を認識し、災害から生命と財産を守るための行動が出来るよう、関係省庁や自治体、日本損害保険代理業協会とも連携し、ハザードマップの活用を推進しております。なお、台風による損害では、屋根の被害を防ぐことも重要です。広域災害となれば、屋根の修理が遅れ家財等への被害が拡大し、生活に大きな影響を与えます。風災時の屋根被害軽減に向けて、引き続き関係省庁との情報連携を進めてまいります。
  • (ウ)今後も大規模自然災害の発生が予測されることから、会員会社の保険金支払い能力を高めることが極めて重要であると認識しております。損害保険業界が引き続き財務の健全性を維持・確保するために不可欠な異常危険準備金について、次年度に火災保険等に係る租税特別措置法の特例積立率の経過措置期限を迎えることから、税制面について制度の一層の充実に向けた検討を行い、関係各方面に働きかけてまいります。

イ.地震災害に対する取組み

 来年3月11日は、東日本大震災から10年という大きな節目を迎えます。この節目において、事前に災害に備えることの重要性についてお伝えするセミナーを開催いたします。最近の研究では、今後30年以内に南海トラフ地震や首都直下型地震などの大規模震災が発生する可能性は70%以上とも言われており、事前の備えの重要性はますます高まっております。本セミナーでは、改めて東日本大震災発生時から現在に至るまでの当協会、業界の取組みを振り返るとともに、今後大規模地震が発生した際に、国民の皆さまが自らの生命と財産を守ることが出来るよう情報を発信いたします。本セミナーや広報活動を通じて、国民の皆さまに地震リスクをより分かり易くお伝えし、経済的な備えとしての地震保険の周知に努めてまいります。

(2)金融・損害保険リテラシーの向上

 金融・損害保険リテラシーの向上を図ることは、国民生活のレジリエンスを高めるために重要であると考えています。当協会は、国民の皆さまが、いつでも、どこでも、だれでも、損害保険について分かりやすく学ぶことが出来るよう、取組みを進めております。

ア.金融リテラシーポータルサイトの整備、および新たな動画教材の作成

 当協会では、損害保険や身の回りのリスク・防災に関してより分かり易く情報をお伝えするため、当協会ホームページ内に「中学生向け」「高校生向け」等の6つの世代別に情報を整理したポータルサイトを整備いたしました。
 また、新学習指導要領に対応した高校生向けの副教材「明るい未来へTRY!」を提供しておりますが、新型コロナウイルスの影響による臨時休校や授業時間不足に対応するため、新たに動画教材を作成いたしました。動画教材の提供により、オンデマンド形式での授業が可能となる上、自習教材としても活用いただくことで、損害保険リテラシーの向上が図られることを期待しています。

イ.ぼうさい探検隊の取組み

 当協会は、これまで17年にわたり小学生を対象とした安全教育プログラム「ぼうさい探検隊」を実施しております。本年度はコロナ禍での実施となりましたが、タブレットの活用や少人数での実施を推進することで、全ての都道府県から約1,000作品の応募をいただきました。本年度からデジタルチャレンジ賞も新設し、入賞22作品を決定いたしました。これまでの子どもたちの提言・要望が、実際にまちの危険箇所の改善につながった事例もあります。今後も本取組みを継続することで、小学生の防災意識の向上と安心・安全なまちづくりに貢献してまいります。

(3)業務の共通化・標準化の推進

 当協会では、損害保険に係る業務の共通化・標準化を進めることで、業務効率の向上を図り、お客さまの利便性向上に繋げる取組みを進めております。

ア.控除証明書発行機能の共同化(電子化・ハガキの共同発行)について

 年末調整に必要な地震保険料控除証明書の発行機能を共同化し、より迅速にお客さまにご利用いただけるよう、業界共通システムの開発を進めております。マイナポータルとの連携についても、2021年のデータ連携を目指して対応を進めております。

イ.共同保険における会員各社間の情報交換

 共同保険における会員会社間の情報交換につきましては、9月にブロックチェーン技術を活用した各社間情報交換の効果検証を行いました。今後は、費用対効果も検証しながら、システム構築に向けた検討を進め、次年度に新たな各社間情報交換の仕組みがスタートできるよう取組みを進めてまいります。

ウ.書面・押印・対面手続きの見直し

 金融庁が主催する「金融業界における書面・押印・対面手続の見直しに向けた検討会」に参加する中で、会員各社に対して取組状況についてのアンケートを実施いたしました。アンケート結果は、会員会社が今後の見直しを検討する上で参考となるよう、当協会から共有しております。
 また、損害保険募集人向けの「損保一般試験」では、更新期限を迎える募集人の皆さまを対象に、従来の集合形式に加えて、オンライン試験を実施しております。さらに、代理店登録関係書類のペーパーレス化の検討も進めているところです。今後も新しい生活様式の中で求められる対応について、積極的かつ柔軟に取り組んでまいります。

(4)各種課題への取組み

ア.サイバーリスクに関する取組み

 ビジネスのオンライン化が急速に浸透し、企業を取り巻くサイバーリスクが脅威を増している状況を踏まえ、「サイバーリスク意識・対策実態調査」を実施しました。調査によると、中小企業の約7割が既にテレワークやWeb会議を導入しており、約4割が新型コロナウイルスの感染拡大を機にサイバー攻撃を受ける可能性が高まったと回答しています。一方で、現在サイバー保険に加入していると回答した中小企業は1割未満であり、サイバーリスクへの備えは進んでおりません。当協会の「サイバー保険特設サイト」等を通じた情報発信により、引き続き中小企業のサイバーリスク対策を推進してまいります。

イ.代理店の募集品質向上に関する取組み

 当協会では、実践的な知識と業務スキルを兼ね備え、お客さまから信頼される募集人資格の最高峰である損害保険トータルプランナーの認定を行っており、今年度は新たに1,317名を認定しました。2014年6月の制度開始以来、認定者は累計15,181名となり、全国各地で活躍しています。引き続き損害保険トータルプランナーの魅力向上を図るとともに、募集品質の一層の向上に取り組んでまいります。

ウ.保険金の不正請求防止に向けた取組み

 保険金の不正請求は、事故による損害を契約者全体で助け合うという保険制度の根幹を揺るがす重大な犯罪であり、当協会はこの撲滅に向けて、消費者庁や警察とも連携しながら取り組んでおります。その一環として、国民の皆さまに保険金の不正請求防止に関する理解を深めていただき、保険金不正請求ホットラインを活用いただくことを目的に、注意喚起動画を作成し、当協会ホームページに公開いたしました。

エ.国際基準への適切な対応

 当協会は、日本の損害保険事業の実態に適合した国際規制の実施に向けて、国内外の関係機関と連携しながら対応を行っております。
 本年11月には、保険監督者国際機構(IAIS)による国際的に活動する保険グループ(IAIGs)の監督のための共通の枠組み(ComFrame)等の採択を受けた「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正案に対して、会員会社への監督の実効性を確保する観点から意見を提出いたしました

オ.新興国市場への各種支援の取組み

 東アジア諸地域に対する保険技術協力・研修プログラムである日本国際保険学校(ISJ)の海外セミナーおよび上級コースをオンラインで開講いたしました。海外セミナーでは、ベトナムを対象に自動車保険や企業の事業継続管理(BCM)等に関するノウハウを提供し、現地損害保険市場の発展に向けて支援しております。また、上級コースでは22名の参加者が商品・IT戦略等への理解を深めました。

カ.軽消防自動車、高規格救急自動車の寄贈に関する取組み

 当協会は、全国各地の自治体へ、軽消防自動車や高規格救急車を寄贈しています。本取組みは1952年から継続して実施しているもので、今年度は新たに20台を寄贈し、累計の寄贈台数は5,149台となりました。寄贈車両は各地域における実際の消火活動や救急救命活動のほか、平時においても住民の防災意識向上のための消防訓練など、様々な用途で活用されています。

3.第9次中期基本計画の策定状況

 本日の理事会において、第9次中期基本計画(2021年度~2023年度)の骨子を決定いたしました。本骨子には、次の3カ年で取組みを強化すべき重点課題として「持続可能なビジネス環境の整備」「災害に強い社会の実現」「損害保険リテラシーの向上」を掲げました。今後は、来年3月の本計画策定に向けて、各重点課題の具体的な取組み内容を整理し、準備を進めてまいります。これからも損害保険業界がお客さまを支えるリスクの担い手として社会的役割を発揮し、損害保険業の健全な発展と信頼性の向上を図ることにより、安心かつ安全な社会の形成に貢献してまいります。

4.おわりに

 協会長就任時に申し上げた通り、新型コロナウイルス感染症への対応に加え、「自然災害への対応力強化」、「金融・損害保険リテラシーの向上」、「業務の共通化・標準化の推進」に重点を置き、各種課題の解決に取り組んでおります。
 今年度の重点取組みは、第9次中期基本計画でも継続することから、中長期の課題についても解決に向けた方向性を示せるよう、着実に対応してまいります。
 引き続き皆さまのご支援・ご協力を宜しくお願い申し上げます。

以 上

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