協会長ステートメント
会長 白川 儀一

 本年6月末に日本損害保険協会会長に就任して以降の主な取組みにつきまして、ご報告いたします。

1.はじめに

 本年も、台風・低気圧・前線による大雨などの災害が各地で発生しています。お亡くなりになった方々に哀悼の意を表しますとともに、ご遺族および被災者の皆さまに心からお見舞い申し上げます。また、本年3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震につきましては、8月31日時点での地震保険の保険金請求の受付件数が43万件を超え、2,523億円を超える保険金をお支払いする非常に大規模な災害となりました。被災された皆さまへお見舞い申し上げますとともに、被災地での救助・復旧活動などに携わられた方々には、深く感謝申し上げます。被災された皆さまに、迅速・適正に保険金をお支払いすることが損害保険会社の果たすべき役割です。この役割を果たすべく、引き続き業界を挙げて、全力で対応してまいります。

 なお、会員である損害保険会社各社は、お客さまに対して、ご契約の継続手続きや保険料のお支払いについて一定の猶予期間を設けるなどの特別措置を適用・実施しています。また、家屋の流失などにより、加入されている損害保険契約に関する手掛かりを失ったお客さまについては、当協会で契約照会を受け付けています。詳細は当協会ホームページをご覧になるか、またはご契約の損害保険代理店もしくは損害保険会社にお問い合わせください。

2.新型コロナウイルス感染症への対応

 本年7月以降、全国各地で新型コロナウイルス新規感染者数が増加に転じ、未だ多くの感染者が報告されており、十分な感染対策が必要な状況が続いています。一方で、我が国ではこれまでの6度の感染拡大の経験から、ウイルスに対する理解の深まり、保健医療体制の整備、検査体制の拡充、ワクチン接種の進展などにより、社会経済活動をできる限り維持しながら、最大限の警戒感を持って新型コロナウイルスと併存しつつ平時への移行を慎重に進めているところです。
 なお、2020年4月以降、入院が必要にもかかわらず、病院の病床のひっ迫等の事情により、宿泊施設や自宅での療養を行った場合、約款上の「入院」の定義に該当しないものの、感染症法上は入院勧告・措置の対象であること等を踏まえて、「入院」と同等に取り扱う特別取扱(みなし入院)を開始した損保会社があります。
 こうしたなか、今般、足もとの感染状況、政府におけるWithコロナに向けた政策の考え方および金融庁からの要請等を踏まえ、療養証明書の取扱いおよび医療保険等におけるみなし入院の取扱いについて、会員各社に検討を依頼しました。
 引き続き、保険金のお支払いに関する会員各社の的確な対応を支援するとともに、非対面・非接触・ペーパーレス手続きの一段の拡大に取り組むなど、社会環境の変化に応じて会員各社のレジリエンス強化に向けた施策を推進してまいります。

3.本年度の主要課題に関する具体的な取組み

 本年度の主要課題に関する取組みについて、6月以降の進捗を中心にご報告します。

(1)気候変動・自然災害

① 防災・減災に向けた取組み

 温暖化がもたらす地球規模の気候変動の影響により、台風や集中豪雨などの自然災害が激甚化・頻発化している中、防災・減災への意識を高めるとともに災害への備えを国民の皆さまの生活に取り込んでいただくべく、関係団体や各自治体と連携した取組みを強化しています。自然災害への自治体の対応は、その自治体が所在する地域の被災リスクなどにより異なります。当協会は、こうした地域特性に応じた防災・減災の支援および、国や自治体等と連携し、様々なコンテンツを活用した啓発活動を展開しています。具体的な取組みは以下の通りです。

・7月に当協会北海道支部が、「水災害対策セミナー ~河川災害から生活を守るためにどのように
 備えるか~」をオンラインで開催
・当協会九州支部が、長崎大水害から40周年を受け、メディアを活用した啓発活動を実施
・6月に全国の中学校約3,500校および教育委員会約550か所に、「ハザードマップと一緒に読む本」
 および「そんぽ防災Web」の案内を提供
・地震保険の普及等を目的としたミニ番組(全6回)を、7~8月に放送
・5~6月に早稲田大学と連携し、「ぼうさい探検隊」を通じたハザードマップ普及企画を実施
・全国各地の自治体に対する軽消防自動車や高規格救急自動車の寄贈(本年度は19台、1952年度から
 累計で5,188台を寄贈)
・内閣府等が主催する「ぼうさいこくたい2022(第7回防災推進国民大会)」(10月開催)に参画し、
 地震保険普及を目的としたパネルディスカッションを実施予定

② 災害に便乗する悪質な業者への対策

 自然災害の増加に伴い、被災されたお客さまの不安につけこんで災害の被害に便乗して不正な請求を促す悪質な業者によるトラブルが増加しています。2021年度に消費生活センター等に寄せられた相談件数は5,093件と、5年前の約3倍となっています。「悪質な業者に違法な保険金請求を誘導されることで知らぬ間に詐欺に加担させられた」、「保険金が支払われずに修理代金を自己負担することとなった」、「解約しようとすると高額な解約手数料を要求された」などのトラブルが多く報告されています。被災時あるいは保険金請求方法に不安や不明点がある場合には、契約されている損害保険会社または損害保険代理店へご相談ください。
 お客さまをトラブルに巻き込み、また保険制度の健全性に影響を与えかねないこのような悪質な行為を排除するべく、当協会では様々な広報活動を実施しています。消費者庁、警察庁、独立行政法人国民生活センターに加え、今年度新たに金融庁にも協賛していただき、こうしたトラブルについて注意喚起するチラシを改訂しています。「あなたの保険金が狙われています!」をキャッチフレーズに、「ご加入の損害保険会社または損害保険代理店にまず相談を頂きたいこと」「保険金の請求はご自身で簡単に行うことができ、手数料はかからないこと」を周知する内容としています。本年8月にはニュース番組でも本問題を取り上げていただくなど、周知活動を積極的に行っています。
 また、当協会に保険金の申請サポート業者に関する消費者からの相談・問い合わせを受け付ける専門の相談窓口(保険金に関する災害便乗商法 相談ダイヤル)を新たに設置し、9月16日に業務を開始します。加えて同日付でインターネットでの悪質な勧誘に注意を促すWEBバナー広告を開始します。今後もこうした取組みを通じてタイムリーにお客さまをお守りできるよう、関連情報をお伝えしてまいります。

③ 気候変動・サステナビリティ関連課題への対応

 当協会は、国内外の基準・規制の検討に関与し、社会環境・自然環境変化に伴う損害保険業界の役割の発揮を目指しています。具体的取組みとして、金融庁が作成した「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が作成した「全般的なサステナビリティ関連開示の要求事項および気候関連開示の要求事項を定めた基準案(公開草案)」に対し、それぞれパブリックコメントへの意見提出を行いました。その他、ISSBのパブリックコメントに際して国際保険協会連盟(GFIA)が作成する意見案に対しても、意見を提出しました。
 また、気候変動対応に関する最新の動向やトピックスを会員各社に通知・解説するニュースレターの配信を行っています。本年8月には、金融庁が作成した「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」について言及し、金融庁に当該文書に込められた想いも寄稿いただき、会員各社の理解促進を図りました。

(2)デジタル・トランスフォーメーション(DX)

① 標準化・共通化の加速

 自賠責保険の「異動・解約手続きの非対面化」および「保険料領収のキャッシュレス化」に向けた業務改革プロジェクトとして、システム設計作業に着手しています。
 また、お客さまにお送りする保険料控除証明書の発行業務を共同化するシステムである「保険料控除証明書発行サービス」については、さらに5社が参画し、計11社が提供するサービスとなります。本年度は、セキュリティの強化やお客さまの利便性向上に資する機能等を追加したうえで、10月からサービス提供を開始します。こうしたシステムを発展させることで、ハガキによる保険料控除証明書の通知に代え、お客さまに電子データで取得していただき、年末調整等でご利用いただくペーパーレス化を目指しています。
 引き続き損害保険業界共通で必要な手続きや事務処理について、当協会が主導して標準化・共通化を加速させることで、お客さまや代理店の皆さまの利便性向上に寄与するべく、取組みを進めてまいります。

② エマージングリスクに関する取組み

 当協会の中国支部では、本年6月に中国経済産業局と連携し、中小企業の事業継続力強化を目的としたオンラインセミナーを開催し、その中で中小企業を取り巻く、エマージングリスクも含めたリスクと保険の解説を行いました。当日は約200名が参加し、皆さまからは、「様々な角度から事業継続力強化計画の話が聞けて良かった」など、大変参考になったとのお声を寄せていただいており、こうした取組みをグッドプラクティスとして全国へ共有してまいります。今後も、各支部において各地域の経済産業局や関係団体とも連携のうえ、中小企業に対する啓発活動に取り組んでまいります。
 また、当協会は、サイバー攻撃などのリスクの認識状況・対策状況等について、中小企業を対象に継続的な調査を行います。アンケートで確認した実態を踏まえ、日本損害保険代理業協会その他の関係団体と連携し、リスクに備える対策の普及を促進してまいります。

(3)その他損害保険業界が進める主な継続的取組み

① 若年層の損害保険リテラシーの向上

 本年7~8月にかけて、中学校・高等学校の家庭科および社会科・公民科の教職員の方々を対象とした生損保合同セミナーを実施しました(生命保険文化センターと共催)。昨年度を上回る176名の方々にご参加いただき、当協会が作成した教材「明るい未来へ TRY!~リスクと備え~」や民間保険に関する授業の実践例を紹介しました。今後も、「生活設計とリスク管理」「社会保障制度」「民間保険」について知識と理解を深めていただくためのセミナーを実施してまいります。
 さらに、
・全国公民科・社会科教育研究会を通じた教材チラシの送付
・全国家庭科教育協会、全国公民科・社会科教育研究会の研究大会における教材紹介
・協会支部を通じた教員へのアプローチ
を実施しています。引き続き、教育機関・行政・有識者との関係構築、金融他団体との連携強化を進めてまいります。

② 保険事業の環境整備に向けた適切な対応

 保険監督者国際機構(IAIS)の「国際資本基準の合算手法の比較可能性に係る評価基準案」に関するパブリックコメントや、国際保険協会連盟(GFIA)が作成する意見案に対して意見を提出するなど、グローバルな規制環境の整備・改善に向け活動を継続しています。また、本年6月30日に金融庁よりシステム投資等を含む保険会社の態勢整備を促進する目的で「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基本的な内容の暫定決定」が公表されました。当協会は、本規制導入に向けた金融庁との意見・情報交換を継続して行ってまいります。

③ 交通事故被害者の方々に対する精神的な二次被害への対応

 交通事故被害者・ご遺族が損害保険会社(および委託弁護士)との示談交渉の中で精神的な被害を受けているとのご指摘、および防止に向けた対応を求める要請をいただいています。当協会はこれを重く受け止め、「損害保険の保険金支払に関するガイドライン」を改定するとともに、12月を目途に、会員会社向けの研修資料を策定し、被害者・ご遺族の皆さまに寄り添った、保険金等支払業務の品質向上をさらに推進してまいります。

④ 新興国市場への各種支援の強化

 東アジア諸地域に対する保険技術協力・交流プログラムである日本国際保険学校(ISJ)が、本年で50周年を迎えました。ISJ50周年記念行事の一つとして、ISJの歩みを紹介する特設記念サイトを開設し、各方面からの祝賀メッセージ動画の掲載を行う予定です。

⑤ 募集品質向上に関する取組み

 本年12月に、損害保険の募集に関する高い知識や業務スキルを修得した「損害保険トータルプランナー」について、新規認定取得記念式典およびセミナーをオンラインで開催する予定です。引き続き、募集人の育成に努め、「損害保険トータルプランナー」資格取得者数の増加を通じて、募集品質の一層の向上に努めてまいります。

⑥ 令和5年度税制改正要望

 本年7月開催の当協会理事会において、「令和5年度税制改正要望」を取りまとめました。本年度は、OECD/G20で新国際課税ルールに最終合意したことを受けてルールの見直しが行われる場合の対応など8項目を掲げ、要望の実現に向けて関係各方面に対して働きかけを行ってまいります。

⑦ 地震保険の理解促進および加入促進

 昨年に引き続き、サッカー元日本代表の内田篤人氏を起用し、「さあ、守りを固めよう。」をキャッチコピーに、地震保険の理解促進および加入促進を行います。地震リスクが低いと思われている地域であっても、「決して安全とは言えない」ことなどをお伝えし、いつどこで起きるかわからない大地震に備え、地震保険での経済的な備えが必要であることを伝えてまいります。

4.おわりに

 新型コロナウイルス感染症の長期化に加え、頻発する自然災害など、私たち国民は、これまで経験したことの無いような様々なリスクに直面しています。このように厳しく不確実な環境下において、「安心かつ安全で持続可能な社会の実現」と「経済および国民生活の安定と向上」に資するべく、当協会は、会員各社と一体となり、真摯に課題に取り組んでまいります。
 引き続き皆さまのご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

以 上

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