協会長ステートメント
会長 舩曵 真一郎

協会長に就任して約6か月が経過しました。この間の主な取組みについて、ご報告と所感を申し上げます。

1.はじめに

 私たちの日常生活や企業活動に大きな影響を与えてきた新型コロナウイルスの感染者数は、官民一体となった感染対策により、下降傾向にあります。新しい変異株の出現を踏まえた水際対策強化が行われるなど、依然予断を許さない局面が続くものの、一人ひとりの感染予防の励行や世界トップ水準のワクチン接種率の実現などを背景に国内の状況が改善しつつあることを歓迎するとともに、あらためて、医療従事者をはじめとするすべてのエッセンシャルワーカーの方々に深く感謝申し上げます。

 当協会および会員各社は、改定した「新型コロナウイルス感染症対策に関するガイドライン」に基づき、リモートワークの推進や対人距離の確保を軸にした対策を引き続き徹底しています。また、保険の引受けから保険金支払いに至るまで、便利で速い、非対面・非接触・ペーパーレス手続きを前提としたお客さま対応を一段と推進していくことで、社会の安心と安全を支えていきます。
 この秋には、新政権も誕生しました。政府は、感染症対策を最優先しつつ、気候変動など社会課題の解決やデジタル技術を活用した未来社会の創生に取り組んでいくことを表明しています。
 損保業界としても、気候変動による異常気象、激甚化する自然災害、世界的なパンデミック、社会のデジタル化の進展がもたらす利益に付随するリスクなどと引き続き向き合い、お客さまの不安を少しでも取り除きながら、課題を解決していくことに尽力してまいります。

2.今年度の主要課題に関する具体的な取組み

(1)気候変動に関連する取組み

①自然災害リスクへの対応強化

a.業界共同取組み

 対策本部を立ち上げて、業界一丸となったお客さま対応を行ってきた7月および8月の豪雨に関し、支払い保険金は12月3日時点で計467億円となりました。被災されたお客さまが一日でも早く元の生活に戻ることができるように、引き続き適正・迅速な保険金支払いを進めていきます。
 また、大規模災害時の業界共同取組みの運用改善や範囲拡大について不断の検討を行い、お客さま対応のさらなる向上につなげていきます。

b.防災・減災に向けた取組み

 9月にリリースした、ハザードマップの確認・活用をお客さまに促すPDF版チラシ「水災害編」「地震災害編」およびYouTubeで公開したハザードマップ啓発ショートムービー「マルの追憶」が好評です。災害への備えは、平時にしっかりと行うことが重要です。是非ご家庭でも話し合う機会をつくってください。
 また、当協会は、10月に山口県の「自主防災アドバイザー養成研修(防災士養成講座認定研修)」に参加、12月に島根県美郷町で国土交通省とともにハザードマップ利活用推進講習会を開催するなど、地元に根ざしたハザードマップ普及活動も展開しています。
 今後も、分かりやすいツールを広く提供していくことで、お客さまの防災・減災意識の向上と地域レベルの共助取組みの強化を図っていきます。

c.令和4年度税制改正要望

  お客さまの住宅が自然災害によって受けた被害を補償する火災保険を安定的・持続的に提供し続けることは私たち損保業界の重要な責務のひとつです。これを制度面で支えるため、火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実を図る必要性を広く訴えてきました。多くの関係者のご理解とご尽力により、12月10日に公表された「令和4年度与党税制改正大綱」に、同準備金の積立率を現行の一律6%から、火災・風水害種目については10%に引き上げること等が盛り込まれました。
 引き続き風水災害を補償する商品を積極的におすすめし、お客さまに安心をお届けします。

②適正な保険金支払いに向けた取組み

 自然災害に便乗した悪質商法による住宅修理関連のトラブルはまだ数多く報告されています。
 こうしたトラブルからお客さまを守るため、住宅修理トラブルに関する啓発活動を継続・強化しています。チラシの作成・配布、特設サイトの開設といった取組みに加え、10月からお客さまにお送りしている保険料控除証明書に住宅修理トラブルに関する情報につながるQRコードを載せています。11月から12月にかけては、YouTubeにインストリーム広告を流すなど、幅広い年代の方々に届く注意喚起も行いました。
 また、悪質な修理業者の関与が疑われる保険金請求事案を体系的・効率的に検知できるツールの開発検討を当協会で進めています。現在、任意参加型の、会員会社によるトライアルテストを行っています。この種のツールに関する会員各社の理解を深めたうえで、開発の方向性を固めます。あわせて、このテストを通じて得られた、現行実務の向上・効率化に繋がる好取組事例は、各社で先行して導入・実施するなど、スピード感をもった対策を講じていきます。
 さらに、会員各社による対策強化を支援するため、社員向けトレーニング等に使える研修動画を作成しました。
 今後も多面的な対応・対策を通じて、お客さまの被害の撲滅を図っていきます。

③会員各社の気候変動対応支援

a.お客さま向け電子パンフレットをリリース

 11月、英国・グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)で各国のリーダーたちは、気温上昇を1.5度以内に抑えることの確認や石炭火力使用の段階的削減を盛り込んだ合意文書を採択しました。
 気候変動の進行は、お客さまの生活や資産を脅かす今そこにある危機です。当協会も、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、7月に策定した気候変動対応方針に沿った業界ベースの取組みを推進しています。中でも、契約の更改時など、お客さまと接点を持つ機会を利用した啓発活動に力を入れています。同取組みを支えるため、電子パンフレット「気候変動について考えて、行動するときに読む本」をウェブ上でリリースするとともに、関連情報を入手できる気候変動対応の特設ページを開設しました。
 リリース直後から、自治体やメディアから問い合わせが寄せられるなど、好評を得ています。幅広い年齢層の方々に読んでいただける、分かりやすい内容となっていますので、様々な場面で気候変動対応を促すツールとして、是非ご自由にご利用ください。
 今後、日本損害保険代理業協会(日本代協)のご協力も得ながら、代理店を通じた一段の普及・啓発を図ります。

b.その他

 会員各社の気候変動対応取組みの強化・加速を促すため、会員各社向けのニュースレターを毎月発行するとともに、第2回の気候変動勉強会の開催や温室効果ガス排出量算定に関する意見交換会の実施を企画しています。引き続き会員各社の取組みを支援していきます。

(2)非対面・非接触・ペーパーレスの推進

①自賠責保険の効率化に向けた検討

 日本には現在約8,200万台の車両があります。自賠責保険の各種手続きの簡素化や保険料払込みのキャッシュレス化などで得られるお客さまの利便性向上の効果は小さくありません。実現に向けて、クリアすべき実務上の課題やインフラ整備について、当協会で検討を進めていきます。

②ペーパーレスの推進

 先般の保険料控除証明書ハガキの共通化および電子データ化の実現を好事例として、お客さまにとっての分かりやすさや利便性アップに加え、会員各社の実務ロード軽減にもつながる取組みを一段と広げていきます。
 事務検討特別部会において、共同保険(一つの契約を複数の保険会社で引き受けているもの)などの分野を中心に、帳票の見直しやペーパーレス化の検討を進めていきます。

(3)リスクへの備えの一段の強化

①2021年度「デジタルの日」特別記念対談

 デジタルの日(10月10日と11日)を記念し、同日のテーマ「#デジタルを贈ろう」に沿って、サイバーリスクと保険に関する対談を東京商工会議所の「中小企業のデジタルシフト推進委員会」委員長、金子眞吾氏(同会議所副会頭)と行いました。社会のデジタル化の進展にともなうサイバーリスクの高まりや企業における対策の必要性について意見交換し、保険がお客さまのために果たせる役割について周知を図りました。対談内容は、当協会のサイバー保険特設サイトに掲載しています。
 企業におけるサイバーリスクへの備えの強化は、IT部門マターではなく、経営マターです。引き続きサイバー保険の普及啓発に努め、安心で安全なDX社会の実現を保険の側面から支えていきます。

②事業者向け保険の普及促進

 中小企業向けアンケートの結果を踏まえ、事業者のお客さま向けの特設サイトをオープンしました。当該サイトでは、中小企業が直面するリスクに加え、具体的な被害事例や役立つと考えられる保険に関する情報をコンパクトにまとめていますので、是非ご利用ください。
 今後も日本代協や関係省庁等とも連携しながら、本サイトを活用した事業者向け保険の普及に取り組み、中小企業の経営の安定化支援を通じた日本経済の活性化に貢献していきます。

(4)高校生を中心とした損害保険リテラシー向上

①高校生の損害保険リテラシー向上に向けた取組み

 「家庭」および来年4月から始まる「公共」の授業で、民間保険が取り上げられます。これから社会に出る若い人たちがリスクについて正しい知識を得ることができる貴重な機会となります。先生方を支援するため、全国各地で、当協会から役立つ情報やツールの提供を行っています。
 あわせて、先般、消費者教育支援センターから表彰された当協会の高校生向け動画教材「明るい未来へTRY!~リスクと備え~」の続編版を5点リリースしました。「学校内や日常生活で起こるケガや病気」など、身近に潜むリスクなどを分りやすく解説しています。引き続きこうしたリテラシー向上取組みに力を入れていきます。

②損害保険リテラシー調査結果

 今後、全国の高校の家庭科・公民科の先生方に対して、より有益な情報を提供できるよう、教育の実態調査を実施しました。生活におけるリスクや損害保険について教育が必要という回答は8割を超えました。また、教科書のみならず、教材・ツールの充実が重要であるとの意見も多く寄せられました。この調査を通じて得られた気づきは、当協会の今後の損害保険リテラシー向上取組みに活かしていきます。

(5)その他各課題への取組み

①ADRで受け付けた苦情・相談情報の活用推進

 お客さまの、損害保険に関する体験をより良いものにしていくために、当協会の「そんぽADRセンター」では、契約者などからのご相談や苦情を受け付けています。
 会員各社によるお客さま対応の不断の改善取組みを支える観点から、同センターでこれまで受け付けたご相談や苦情に関するデータをより深く分析できるシステムを11月に導入しました。会員会社ごとの苦情特性や業界共通の課題の把握を通じて業務品質の一段の向上を図っていきます。

②地震災害への備え

 東日本大震災から10年という節目を迎えた今年、「ぼうさいこくたい2021」が、11月上旬、震災で大きな被害を受けた岩手県釜石市で開催されました。当協会は、パネルディスカッション「東日本大震災 これまでの10年、これからの10年」を主催し、有識者や市民代表の方々とともに、災害伝承や防災教育の重要性について話し合いました。
 災害大国である我が国では、「巨大地震等の災害は必ずやって来る」との認識のもと、平時から自助・共助・公助をバランスよく組み合わせた防災対策を講じることが大事です。業界一丸となって、引き続き地震保険の普及推進に努めます。

③保険募集人の品質を支える取組み

 日本代協と連携して、保険募集のプロフェッショナルである「損害保険トータルプランナー」の認定取得に関するセミナーの一部をオンラインでも受講できるようにしました。お客さまの満足度向上は当業界の基盤をなす取組みです。12月から募集を開始していますので、保険募集人の皆さまは、積極的にチャレンジしてください。
 改姓による不便やキャリア分断等を防ぐため、職場における旧姓使用が当たり前になってきています。今月、代理店登録・募集人届出における旧姓使用に対応したシステムの改修を完了しました。今後もインクルーシブな社会づくりに貢献していきます。

④新興国市場への各種支援

 東アジア諸地域に対する保険技術協力・交流プログラムとして1972年から毎年実施している日本国際保険学校(ISJ)の一般コースを11月、オンラインで開催し、13地域から23名が参加しました。
 引き続き様々な機会を捉え、国際市場におけるアジア損保市場の地歩向上に貢献していきます。

3.おわりに

 協会長としての活動も折り返し地点に近づいてきました。
 お客さまの利益と利便性のため、当協会の現行中期基本計画に掲げた3つの柱、「持続可能なビジネス環境の整備」、「災害に強い社会の実現」、「損害保険リテラシーの向上」の実現に向けて、関係者の皆さまとともに成果を積み上げることができています。
 一方、気候変動対応は緒に就いたばかりです。また、withコロナというビジネス環境への適応や特定の住宅修理業者からお客さまを守る取組みなどを緩めることはできません。
 お客さまの安心・安全を支え続ける社会インフラとしての役割・機能を持続的に果たせるよう、会員各社と一体となって、主要課題に真摯に取り組んでいく所存です。
 引き続き皆さまのご支援・ご協力を宜しくお願い申し上げます。

以 上

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